故に今
たまに思う。あの時彼が自分の作品を見せてくれず、己の考えを打ち明けてくれなかったら……。だとしたら今、わたしは日記をつけてはいなかっただろうし、小説も、詩も、書いてはいなかっただろう。何より、私が今まで考えたことはみな、全て時の流れに消えてなくなってしまっていただろう。わたしの書いてきた文章には、その時のわたしが刻まれている。読み返す時、わたしは一歩一歩、自分が歩いてきた道を思い起こし、辿ってゆく。過去の文章を読むことは恥ずかしいが、いつのまにか忘れていた大切なことを思い出させてくれたり、逆に新鮮に感じたりするのである。今までもわたしは過去の自分に随分助けられた。
これまでのことを考えると、わたしは彼に、感謝してもしきれない。
たしかこの間、同窓会のお知らせを書いたハガキが届いていた。もし彼に合うことができたなら、わたしはまず、彼にありがとうと言おう。あの出来事があった。故に今、この「わたし」という人間は存在しているのだから。
2018.10.21 晴れ