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灰色の世界

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 今日は明るい夜です。
 僕は今日という日を何度も夢に見ました。胸が小さく脈打っています。子守歌をきいているかのような安らぎを感じます。
 いつもおしゃべりしている木の緑たちも、僕を静かに見守ってくれています。
 慣れ親しんだこの床に寝転んでいると、昔のことを思い出します。
 お母さんのこと、兄弟のこと、そしてケンさんのことを。
 
 物心がつき始めたとき、僕は灰色の世界にいました。
 四角い空間には、堅くて冷い床と壁しかありません。
 よく、壁の向こう側から、世界をお掃除しているような、押し流すような音がずっとしていて、僕は弟たちとぴったり身体を寄せ合って耐えていました。
 今ではちっとも怖くありませんが、その時はとても怖かったのです。その音が風だということは、僕がずっと大きくなってから、ケンさんというひとに教えてもらいました。
 ケンさんは今、どうしているのでしょうか。
 そうそう、お母さんから教わったこともあります。
 僕たちの部屋には、窓という穴が開いていました。そこは外という世界に繋がっていて、外は僕たちのいる灰色の世界とは違い、たくさんの色で溢れているとお母さんが教えてくれました。ですが残念なことに、僕にはうまく想像ができません。あの窓がもっと低い場所にあって、その向こう側に立っている木がどこかへ行ってくれれば分かったかもしれないのですが。
 そういえば、僕はお母さんにどんな色が好きだったのか聞いたことがあります。確か赤が好きと言っていました。赤というのは不思議な色で、見るとどうしても臭いを嗅ぎたくなり、臭いを嗅ぐと次は噛みつきたくなって、最後には楽しくて楽しくてしょうがなくなるそうです。
 赤を見てみたかったのですが、その窓からは茶色と緑のお化けしか映りません。
 あのお化けは「木」というそうです。これもお母さんが教えてくれました。
 木は一日に何度も僕たちを驚かせようとしました。僕たちの何倍もある大きな身体で揺れると、何かが崩れ落ちるような気持ち悪い音がして、緑色のひとつひとつが騒がしくおしゃべりを始めるのです。「早くこっちにおいで」「食べてあげるよ」なんてことを言っていたのかもしれません。
作品名:灰色の世界 作家名:犬上健太郎