はじかみカレー
よほど驚いたのか、思いっきり振り返った政谷の肩を軽く叩いて洗面所へと向かう。
歯を磨いて、部屋に入って本当にすぐ寝てしまった神谷は、次の朝に今回の結果を知ることになる。
「……面白い味する。ジンジャーっぽいけど他にもなんか多めにした?」
舌を軽く刺激する程度の辛みに抑えて、広がる薫りがいつもより強めである。
さらに言うと、食べると体が温まるこの感じは生姜の気がする。
素直に感想を言うと、政谷は深く頷いてた。
「やっぱお前に作った方が良いわ……。山椒だよ、山椒」
あいつただ「美味い」しか言わねぇ、と言う政谷の顔を見れば一目瞭然である。
『あぁ、手がかかる』
笑う神谷に対して嫌な顔をしないあたり、今日の夕飯を置いて宮田との部屋に帰るくらいに機嫌は直ったのだろう。
早い時間にバイクの音がして部屋のどこにも宮田の姿がないから、もう帰ったのだ。
神谷は、大きく伸びをしながら呟く。
「俺が名前つけてあげよっか、このカレーに」
「名前? ジンジャーカレーとかか?」
そのまんまだろ、と笑う神谷を小突いて笑うな、と言った後政谷は問いかける。
「んで? 命名してくれんのかよ、わざわざ」
「古事記では、山椒をハジカミって言うんだけどさ、生姜も同じくハジカミって言うんだよ」
だから、はじかみカレーってどう?
古典なんて全く興味のない政谷には不評かな、と神谷が笑う。
「……はにかみ?」
「はじかみだよ、ちゃんと聞いてた?」
聞いてたよ、聞いてた。と何度も言うものだから余計怪しいな、とは口にせずとも笑ってしまう。
「宮田さんも、はじかみカレー気にいったんじゃないの?」
政谷、今日帰るんだろ、と言って洗面所へ歩く神谷の方を政谷が向いて、言う。
「お前、エスパーか?」
確かにいつもより喰ってたし、俺今日はちゃんと帰るってまだ言ってないよな。
何度も聞いては、あれ、言ったんだっけ。と記憶を問いただす始末。
その姿を見ながら神谷はまた掌で顔を覆って、笑った。