私の弟ハチと
ハチの背中がはっきりと見えた瞬間、どっかに逃げてた私の理性が帰ってくる。
「俺に姉貴がいちゃダメだって、決まりでもあんのか?」
ごめんハチ、私笑いそうだ。
心の中で最大限に謝罪を繰り返しながら、私は笑顔でハチの背中を叩く。
「そんな決まりあるわけないでしょ、ハチ! 行くわよ、ほら!」
横を通り抜けて、目の前の二人には目もくれず私が歩く。
その後からハチをなだめながら兵吾君や、こちらを心配そうな目で見る伴内君がついてくる。
不機嫌そうな表情をいつまでもやめないハチに何か言ってやろうか、と口を開くより先に。
「ハチ」
そう兵吾君が呼んだかと思うと、男の子らしいけれど綺麗な手がハチの顔をいい音がするくらいの早さで挟んだ。
なにが起こったのか判断できないまま目を白黒させるハチに、兵吾君はゆっくり言う。
「悪くないし、『いちゃダメ』なんて決まりもない。それでいいだろ」
いつまで顔を膨らませるつもりだ、ともう一度挟むような仕種をとる久喜宮君。
「ご、ごめ。悪かったって! え、あれ? 俺が悪いのかこれ!?」
すっかり元通りのハチにかける言葉も心の中にしまいこんで、私は後ろを向いた。
駐輪場にはもう、あの二人の姿はなかった。