さあ、行きましょう
序
はらはらと白いものが降っている。
風が吹くと、それは視界いっぱいに舞い散る。
まるで、雪のようだ。
さあ、行きましょう。
うながす声がした。
そのひとはめったに声を荒げることのないひとで、そううながしたときの声も、やわやかくて、どこにもとがったところはなくて、優しく響いたあとは淡雪のように消えていった。
大きな手のひら、しかし、その指は細く、その先は前方をさしていた。
そこには、そのひとがこよなく愛している花があった。
桜の樹だ。
満開だ。
咲き誇る花の下は、光を集めたように明るい。
幸せに満ちているように、明るい。
さあ、行きましょう。
うながされて歩きだす。
仲間たちと、話しながら、笑ったりしながら、歩く。
あのひとの指さすほうへと進んでゆく。