鳥
「プラスチック弾じゃ、死なねえよ」
「だからって……」
いいかけた桐原の背後で、水音がした。映画に出てくる怪獣のように、水べりに腕をかけて羽生が出てくるところだった。
ずぶぬれの状態で地面に足をつけるやいなや、羽生は全速力で突進してきた。迫丸は躊躇せず引き金から銃身に持ち手を変えた。弾丸が残っていないことを知っているのだ。
右ストレートをかわして、迫丸はモデルガンのグリップを羽生の首に叩き込んだ。バランスを失った下腹に容赦なく膝を突き入れる。表情を歪めたのは迫丸のほうだった。羽生が膝と腹の間に腕を差し込むようにしてガードしているのが、桐原の目にも見えた。
どちらかというと痩せ型の迫丸の体が、大きく宙に浮かび、地面に叩きつけられた。さらにのしかかろうとする羽生の胸に、こんどは真っ直ぐ踵が命中した。
羽生がさすがに後ずさる。迫丸も即座に起き上がり、茫然としている桐原の目の前で、ふたりは対峙していた。
「決闘だ」
噴飯ものの古臭い台詞を、羽生が吐いた。
「いつかやんなきゃいけないと思ってた」
迫丸が頷く。なんと陳腐なやりとりだろうか。しかし、桐原には笑えなかった。
互いに加減なしに殴りあう幼馴染たちを眺めながら、桐原は自分が焼けた鳩になったような錯覚をおぼえはじめていた。
おわり。