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白草(しろくさ)
白草(しろくさ)
novelistID. 631
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曇り空、その向こう側に

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「おぅ、言うねぇ、お嬢さん」
「その意気だよ。男なんて、そこら辺にいるんだから」
 わいわい、がやがや。
 誰かが、もうすぐ日の昇る時間だと、時計を見ながら言った。すると、それまで騒がしかった人たちが、皆、静かになる。いよいよだ、と、天空の王の姿は見えなくとも、曇り空の、その向こう側に、太陽は必ず存在しているのだから。
 私は、どうしてか、その瞬間は一人でいたいと、そう思った。だから、集まった人たちに頭を下げて、焚火から離れて海の方へ歩いて行く。そろそろだ、という予感を胸に抱きながら、私はさくさくと地面に足跡を刻む。
『どうして正月がめでたいのか、知ってる?』
 すると、思っていた通り。頭の中で、聞きなれた彼の声が響いた。これが、最後の。私を繋ぎとめようとする、私自身の心。弱さとの、決別の時。別れの呪文を、私は今、知っている。
『天照大神が生まれた日だからなんだよ』
 彼の言葉は、去年の元旦に聞かされたこと。続く言葉は、
「でも、それは違う」
 私は彼の言葉を奪い、言葉が意味を得る前に、私の言葉と意味で、塗り替える。
「冬至で力を失った太陽が、力を取り戻す日なんだ」
 そして、私は海岸線へ辿り着く。よくわかっているじゃないか、そんな彼の声は頭の中に響かない。さあ、今こそ別れの呪文の封を切ろう。解き放ち、すべてを清算し、新しい明日へ向かおう。
「さよなら」
 吹き付ける風に身体を震わせながら、潮の匂いを胸一杯に吸い込んで。すると、肩の荷が下りたような、変にすがすがしい気分になった。
 当然のように、彼の返答はない。振り返ってみても、彼の姿などない。焚火に集まる、人の姿があるだけ。その中の誰かが、私に手を振っていた。豚汁を配ってくれた、おばちゃんだった。私は笑みを作って手を振り返し、身体を前に向ける。そこには海がある。日の出はない。空には白い雲がかかって、向こう側を見通すことはできなかった。
「なんだか、身を清めたい気分」
 言い終わる前に、私は足を動かしている。一歩、さらに一歩。そして、パシャ、って。
 ああ、冷たいなぁ。なんて思いながら、スニーカーに海水が染み込むのだって構わない。流石に全身ずぶ濡れになるわけにはいかないから、我慢して足首までを清めよう。
 波打つ海面が、私の汚れを部分的に洗い流していく。けれどそれで十分。