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白草(しろくさ)
白草(しろくさ)
novelistID. 631
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曇り空、その向こう側に

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『……はずだった?』
 微睡の中、私は彼とこのまま話を続けることに、肯定的になりかける。
「そう、あなたのせいでね。もう、なんだか面倒臭くなっちゃった」
 でも、それはいけないこと。叶えてはならない願い。そして、今日はイヴ。すべてを清算せよ。しなければならない。いつまでもしがみついていて、いいわけがない。
 だから、『それは残念だね』なんて答える彼の言葉も、私にとってはどうでもいいものであるべきなのだ。
「残念じゃないわ、面倒なの。どうでもいい」
 清算せよ。動き出せ。私は私自身に強く命令する。振り向かず、二度と会うことのない彼から、私が離れて行くべきなのだ。
「それと、ね。もう眠いの」
 グラスに残った日本酒を一気に呷って、私は横歩きをするようにして、パソコンの置かれた机から数歩、移動する。
「というわけで、おやすみ。ばいばい」
 私は手を振って、辿り着いたベッドの上に倒れ込んだ。ぼふっと良い音がして、干したばかりの羽毛布団からは、お日様の良い匂いがする。
『そうなんだ、おやすみ』
 もぞもぞと身体を動かして、膝を抱え込むような体勢をとって、睡眠モードへと意識を切り替える。
「うるさい、黙れ」
 最後にもう一度手を振った。おやすみ、じゃない。さよなら。そんな意味を込めて。
 去年ではない今を見よう。目が醒めても、私は一人。

  ◆◇◆

 異常事態だった。
「なんというか……神秘ってやつかしらねぇ」
 いや、決して私が目覚まし時計の力を借りずに起きたことじゃなくって、ダウンも羽織らずにアパートの外に出ていることでもない。前者は寝る直前まで飲んでいた日本酒のせいだろうし、後者は単に私が寝ぼけていただけだ。
「地球は、ちゃんと自転してるんだなぁ」
 時は一月一日。新しい年の、最初の日。午前四時。風も冷たくて、地域によっては雪が降っているかもしれない寒さの中、私はダウンも羽織らず、トレーナー一枚という馬鹿みたいな恰好で星空を見上げていた。
「あ、それと公転もだね」
 綺麗な、と形容詞を付けることはできない。だって、空には雲がかかっていたから。それでも、夜を照らす天空の女王の姿ははっきりと見えて、でも、少しだけ欠けていた。不自然な歪み方をした月。部分月食と言われる現象に、私は遭遇していた。