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杜若 あやめ
杜若 あやめ
novelistID. 627
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連鎖

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「ああ、この人なら確かに1週間前からうちで働いていますよ」
園長兼シスターは、にこやかに言った。
ビックマムという形容がぴったりの貫禄のある体に、小さな手がいくつも
しがみついている。
「若いのに子ども、特に赤ちゃんの世話がとても上手でね。どうなさいました?」
シスターの表情が、怪訝そうなものに変わると同時に、私は軽くわき腹をひじでつつかれた。
「い、いえ」
私は慌てて首を振る。きっとさぞかし間抜け面をしていたんだろう、と思うと体の芯が
恥ずかしさで熱くなった。
「彼女の住所を御存知ですか」
「ええ、すぐ近くよ。ところで彼女なにをしたの?」
「いや、ちょっとした交通事故の目撃者なんです」
そう言ったのは隣に立つ相棒だ。
そう、と頷いたシスターの表情が私と話していた時より柔らかい、と思うのは
白人の僻みだろうか。シスターも相棒もその肌はつややかな褐色だ。
シスターの後ろに隠れている子どもも同じ。色の濃淡はちがえども、白い肌の子は一人もいない。
「ちょっとまってね」
と言いながら、シスターは床で遊ぶ子どもを書き分けるように奥に消えた。
盾がいなくなった子どもたちが、じっと私たちを見上げる
その視線に私は嫌な見覚えがあった。
町で後ろ暗い奴が制服を着た私を見つめる視線と同じなのだ。
なぜ、こんな小さい子どもたちが?
私は落ち着きなく、コートのポケットに手を出し入れしながら横目で相棒を見た。
彼はサンタクロースのような笑顔で子どもたちを見つめている。
子どもの一人が不意に泣き出した。
「あらあらごめんなさいね、こういう場所の託児所だから皆警察にあまりいい印象がないの。
自宅に踏み込まれて親が逮捕された子もいるから」
豊満な体をゆさゆさと揺さぶりながら小走りに戻ってきたシスターは、メモ用紙を相棒にわたし、
泣きだした子供を抱き上げて、その耳元になにか囁きかける。
「ありがとうございました」
丁寧な礼を言ってきびすを返した相棒に、私もそそくさと従った。と。コートのすそに
引っ掛かりを感じて振り返る。ベージュ色の布を掴んだ褐色の手の持ち主は、
おさげ髪の女の子だった。おどおどとした表情が、リスのような小動物を連想させる
「なんだい」
できるだけやさしい声で尋ねた私に、女の子は小さな声で
「お姉ちゃんを、捕まえちゃうの?」
作品名:連鎖 作家名:杜若 あやめ