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サクラサク

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 サクラサク


 篤史が通学に使う道は、桜並木がずらりと並ぶ川べりだった。
 その川は、隣にあった大きな川を人工的に引いて作られたらしい川で、土手もなければ、川原にある、独特の丸みを持った石も無い。
 申し訳程度に作られた川と、やけに綺麗に整頓された川べりと、その川を覆うかのように生えている桜の木。
 その横を篤史は毎日、すぐ横の細い道路から眺めつつ学校に通っている。
 今は四月で、ちょうど春休みの最中だった。
 部活の帰りである篤史は今日も桜の木を見上げていた。
 つい先週まで丸裸の木の肌を見せていたその桜達は、この瞬間を待ちわびているかのように淡い桃色の花びらを全身にまとっている。
 もうすぐ行われる桜まつりや、夜に花見をする人の為に提灯が木にくくりつけられている。夜になればそれは、赤い灯を灯すのだろう。
 ざあ、と風が吹く度に、風たちは枝を揺らし、桃の花びらを大気に舞わせていく。まるで風たちのお祭りのようだ、と篤史はぼうやりと考えていた。
 川べりの道のひとつを曲がるともうそこは篤史の家だ。普段なら、桜並木には目もくれずに帰宅するのだが、今日はなんだかまだ家に帰る気分では無かった。
 彼にしてはらしくもなく、桜を眺めていたい気分だったのだ。
 しばらく肩に背負っている鞄を右手に掴んで、ぶん、と振るっていた篤史であったが、やがて何かに観念したかのように川へと続く階段をゆっくりと下りていった。
 下から眺めると、覆いかぶさるように生えている桜の木が、秀麗に見える。一枚ひらり、と落ちる花びら。
 ――まるで、自分達の世界と同じだ、とぼんやり思った。
 枝に連なって咲いている時だけ美しいものとして扱われる桜。
 学校と自宅を往復している時だけ美しいものとして扱われる、自分達。
「世界は、意外と狭いな……」
 いつの間にか、想いが口をついていた。
 その言葉は、今の自分の姿そのものなのかもしれない。
 ぼんやりと桜を見上げている篤史の耳に、小さな足音が届いた。その音の方向へ顔を向けると、そこには少女の姿がある。
 少女は、篤史と同じように桜の木を眺めていた。じい、と桜の木を見つめ、そしてはらはらと落ちていく花びらを眺めている。
 随分熱心に眺めているな、そう思った時、その少女は篤史の方を急に振り返った。
作品名:サクラサク 作家名:志水