夏色のキス
――そのほうがいいんだよ。きっと、すぐに忘れて、いい思い出になる
「ならないっ」
――なるよ
夜人が笑って、目を閉じる。
俺は、そっと顔を近付ける。
キスだった。
それが俺と夜人が交わしたはじめてのキスだった。
なんの味もしない。ただ汗と涙でしょっぱいキスだった。
キラキラとした輝きが消えた。俺は、一人ぼっちで、その場に残された。夜人は消えてしまった。
その夏に、俺は一つの思い出を作った。夜人のキスという、思い出だった。きっと、いつか、これが忘れてしまうような思い出になるのだろうか。いいや、きっとならない。だって、俺は夜人が好きだから。それは、いつか別の人を好きになって、付き合いだして、結婚したり、子供ができてもかわらない。
きっと、それが初恋なんだ。