Awtew.2 (e-r) 1
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それからというもの、僕は親父の見舞いの帰りに彼女の部屋に行くようになった。
いや、むしろ彼女の部屋に行くことの方が病院に行く目的だった。
そして、今日も彼女の部屋の扉の前に立っている。
「あ、セキ君ですね」
足音でわかったのだろうか、扉の中からそう歩香の声が聞こえた。
「ああ。入るよ?」
そう聞くと、どーぞー、と聞こえる。僕はドアを横に引いた。
「こんにちはー、っと、食事中?」
目の前では、歩香がベッドの上でテーブルを開き、小さな口で病院食を食べていた。今の時間は二時……遅目の昼食だな。
「はい。でも、もうお腹がいっぱいなので」
お皿の上の、病院食にしてはおいしそうな昼食は、半分も食べられていなかった。
「これだけで足りるの?」
「はい。まだお腹に入るものがありますし」
歩香はおもむろに箱を取り出しす。中には、さまざまな種類の薬。その中から十個ほど選び出し、そして、
飲み込んだ。
「え、ちょ、水っ!」
ゴクン、なんて音が聞こえる。
「んっ、と。え、水がどうかしましたか?」
……マジか?
「いや、薬を飲むなら水と一緒に飲もうよ」
「だって、もったいないじゃないですか」
「なにが?」
「時間が、です」
「時間がどうとかより、喉を詰まらせるよ、そんなことしてたら」
「大丈夫ですよ」
どこからそんな自信が来るのやら。
それよりも、歩香はそう言いながらスケッチブックを取り出す。
「今日もお願いできますか?」
「もちろん」
僕は椅子を持って行き、歩香の前に座った。
歩香は僕が来るたびに僕を描いた。理由は、看護士さん、先生は描き飽きたということらしい。
歩香は僕を描く。
彼女のペンには迷いはない。
一目『僕』を見て、構図を頭に描き、一度しか描けないペンと紙で描き出す。
僕は興味本位で聞いてみた。
「なんでフェルトペンで描くの?」
「一回しか描けないからです」
すぐに、こんな返事が返ってくた。とても分かりやすく、とても分かりにくい理由。
「そりゃ、一回しか描けないけど、それが理由?」
「そうです」
「でも、鉛筆とか木炭とかで描いたほうがもっと絵が良くならない?」
そう、歩香の技量なら、道具さえ変えればもっと凄い絵を描ける。
「確かにそうかもしれません。でも、それは今と未来が混在している絵じゃないですか」
作品名:Awtew.2 (e-r) 1 作家名:犬ガオ