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満月ロード

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 剣士や柔術者等は他の魔物に任せ、俺は魔術者を中心に潰しにかかった。
 魔術者が嫌いだ。
 魔物が使う魔法に対抗しようと、いつだったか“魔術”というものを編み出し、研究する者が増えていた。最近は扱える人間が増え、魔物を脅かす。
 魔法のように、魔力によっての威力の違いがない。その代わり、儀式をおこなうように呪文みたいなものを詠唱している。
 みてきた中では、その詠唱時間が長ければ長いほど、強い魔術を繰り出していた。
 魔力を持つ者を魔物というが、魔術を使うものだって、人間ではないんじゃないか。別の種族になるんじゃないかと思う。が、アマシュリが言うには、人間だということだ。幼いころから修行に出され、魔術を習わされている。と言っていたから、人間なのだろう。

「お前すげぇな。助かったよ」
 
 ここの地域の魔物だろう。
 器用ではあるが、細かい作業が嫌いなせいで、作りだした魔力の水壁を一気に崩せないという欠点と戦い、踏むように水壁を崩していると、一人の男が声をかけてきた。

「あぁ。お前らも強いじゃないか。やっぱり今みたいなの多いのか?」
「多いな。たぶん境界に属する地区は苦労していると思う。特にここはひどい。だから、周りの地区の奴らが手伝ってくれてるから何とかなるけど…」
「ふぅん。警備つければもう少しましになりそうだよね」
「警備かぁ。魔王の下に配属してる魔物だったら強いだろうし、そういう奴らが来てくれれば大分違うと思うんだけどなぁ」

 そうため息を漏らす男。
 俺が魔王だと知ってのことか、知らずのことか。
 口調からして、俺を魔王だと知っていればこのような言い方ではなく、お願いという形での話になるのだろうが、お願い。というよりも、こういう形で聞いたほうが動きやすい。
 魔王だとばれないように、俺は口を開いた。

「確かにそうだよね。魔王って、王ってだけでなんか仕事してるのかなぁ」
「王はきっと忙しいんだ。きっとこの騒ぎのことだって知っているだろう。でも、もっとしなくちゃいけないことがきっとあるんだ。だからきっと、きっとその仕事が終わったら、こっちのことも気にかけて頂けるもんさ」
 
 そうつらい顔ではなく、嬉しそうな顔でしゃべるこの男に、少しだけ親近感がわいた。
 “きっと”という仮定だけだが、それでも魔王がいつか…。と思っているだけで、俺は何かをしなきゃいけないんだという気持ちにさせられる。その状態が好きだ。
 
 何かあったらと、シェイルは警備や軍として数百人の魔物を育て、強くしている。その数百人の中でも、もっとも力のあるものを城の警護として日々動いている。その下にいる奴らでも、もっと人数を増やし、各境界地区に配属させるのもいいかもしれない。
 いろいろ楽しいことを思いついてきたせいで、壁を壊す手が止まり、座り込む。
 ついついテンションが上がると、自然と具現化してしまう尻尾を地面を這わせるように、右に左に揺らす。その姿が猫みたいだと、リベリオに好まれている。

「あんた、名はなんていうんだ?」
「あ? 俺か?」

 楽しんでいた最中に、名を聞かれた。
 魔王の名を伝えるのはまずいし、かといって適当に名前を言ったって、忘れてしまって呼ばれて気付かない。だなんて状況もまずい。

「んー。適当に呼んでよ。固定の名前ってないからさ俺」
「固定の名前って…親になんてつけられたのかって聞いてんだけど…」
「それがさー。幼いころに亡くなっちまったみたいで、知らないんだよね。あちこちに転々としてるうちに、名前忘れちった」

 なんてホラを吹いたところで、その嘘自体も忘れてしまうんだろうなぁ。と思いながら、適当に口を開いている。

「そっかぁ。つらい思いをしてるんだな」
「結構適当に付けられるの楽しいんだよ? 忘れるけど」
「はははっ。忘れちまうのか」
「うん」
「でも、本当に今回はありがたい。またどこかにいっちまうのかい?」
「うん。まぁね。転々とするの楽しいし」
「じゃ、またよったら声かけてくれよ。俺はずっとこの地区にいるからよ」
「うん。そうするよ」
 
 結局名をつけられずに、その男は俺の近くから去って行った。
 魔物だって、手を出さなければ人間と同じように、話して仲良くなって、友達になる。人間と魔物の違いは、魔力があるかないかの違いだけだ。そう思っている。
 
 
 
 
 
作品名:満月ロード 作家名:琴哉