満月ロード
「気付かれたとは思った。でも、一人残っていたって仕方がないし、足なんか震えて逃げられなかった。たぶん、何か襲撃する理由があったのかなんか知らない。でも、わけもわからない子供や大人まで殺す魔物の気持ちがわからなかった。だから魔物を嫌った。憎んだ。それから行く先々で、魔物に襲われたという話を聞くたび、怒りは収まらなかった。でもどうしてだろうな、アマシュリが魔物だと知ったはずなのに、アマシュリをあまり憎く思えない」
「それは、アマシュリがお前に何もしないからだろう? それより、お前はどうして生きていられた? 動けなかったのだろう?」
そこが気になる。
足が震えてその場から逃げられないというのに、どうしてその時魔物に襲われず、今ここに生きてたくましく育っているのだろう。
質問に、暫く答えようとはしないルーフォン。言いにくいのだろうかと思い、言いにくいのならと諦めようとした時、ゆっくりと口を開いた。
「助けが来たんだ。一人の男の子が」
「男の子?」
襲撃をされていて、あまり魔物と接点がない街に、他の男の子が無事でいる気がしなかったし、無事でいたとしても、他人を助けられるほど、余裕がある子供がいたのだろうか。
話が気になり、寝床から身を起こし、上半身だけを外に出して月の光を浴びるように、月を見上げているルーフォンの後頭部を見つめた。
「あぁ。そのころの俺と同じくらい、子供のくせして安定した表情をしていた。魔物を目の前にしているというのに、怖気づかなかった。あまりにもこわくって、その男の子がどうやって魔物を退散させたのかまでは覚えてないが、気がつけば魔物がいなくて、目の前にその男の子が座って、気がつくのを待っていた」
「へぇ…。そいつは今は?」
「知らない。俺の手を引いて、大きな街に連れていかれて、孤児院に預けられた。その孤児院の子なのかと思ったけど、安心して泣いている間に姿を消していた」
「じゃあそれから会ってないのか?」
「いや、たまに出かけると、人目の付かない位置で見かけては一緒に遊んだ」
「そいつの名は…?」