満月ロード
「何? 夜遊び?」
「朝の挨拶する前に唐突だな。飲み物買ってきたんだよ。ほらっ」
そう言って、片手にたくさん持っていたペットボトルを、アマシュリのほうに向かって放り投げる。受け取りそびれたペットボトルが、床やベッドに散乱する。
その様子を見ていたアマシュリが、頬を膨れさせながらルーフォンに向かって怒鳴りつける。
「ちょっと買いすぎじゃない!?」
「えっ? そこ?」
てっきり、ものを投げるなとか言うと思っていたのに、まさか、買いすぎていたところに怒るとは。意外な言葉につい驚いて、アマシュリのほうを見てしまう。
ぶつくさ文句を言いながらも、散乱したペットボトルを物色し、お目当ての物を見つけて口に含んでいた。投げることに関しては問題ないのだろうか。
じっとアマシュリのほうを見ていると、視線に気づいたのかペットボトルを口から離し、またペットボトルを物色し始めた。次は何を見つけるのかと思ったら、甘いロイヤルミルクティだった。
「はい。甘いの好きですよね」
「おっ、さすがアマシュリ」
「で? なんで見つめていたんですか?」
ペットボトルの固い蓋と戦い、力いっぱいまわして開け、口に含める。
朝は甘い飲み物が喉にいい。と、誰かが言っていた気がした。
「ん? いや、なんか俺の知らないアマシュリがいっぱいいるなって」
「はぁ? 僕は一人しかいないです」
(いや、そういうことじゃないんだけどなぁ…)
こんなにも突っ込みがいのある奴だとは思わなかった。
仕えているのは長いが、実際一緒にいる時間自体はそんなに多くはない。だからこそ、知らないアマシュリの面があってもおかしくはないのだが、こんなにも面白いやつだとは思わなかった。
笑いをこらえている中、ルーフォンが口を開く。
「気になっていることがあるんだが」
「あぁっ? なんだよ」
「もしかして、シレーナのほうが立場が上なのか?」
いきなりな質問。それに、何処から出てくるのか分からないその質問に、アマシュリとともに首をかしげてしまう。
「どうしてだ?」
「乱暴だが、アマシュリはシレーナに少しだが敬語を使っている様子があるからな」
「あー、まぁ、連れですから。先日の闘技場にだって、無駄に暴れないか見張りのためだったから」
「なんだアマシュリ。嫌だったのか?」
「嫌とかではないですが…。そうですね。シレーナのほうが立場が上です。上どころじゃない。上の中の上」
呆れたようにため息をつきながら、ペットボトルの淵に口をあて、喉を潤おす。
アマシュリにとって、答えにくい質問だ。
魔王様だからこそ、一番上の立場であって、こんな身近にいていいものではない。これがアマシュリの考えだ。
だれにも見つからないような位置にいて、護衛に守られ誰の味方もせず、気に食わない者たちを無残に殺す。そんな奴が魔王だと思っていたアマシュリの想像力もすごいが、のほほんと呑気に人間の土地に足を踏み入れている現実の魔王も魔王なのだろう。
しかも、「勇者になっちゃった。エヘッ」なんて、舌を出しながら言ったっておかしくない性格をしている。
「そうか…。じゃあもう一つ聞いてもいいか?」
「なんだよ質問ばっかりだな」
乱れた髪を直しながら、ルーフォンのほうを見ることなく、文句をぶつくさ言う。