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満月ロード

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「言えよ。降参のサイン」
「…俺は言えない。俺は魔王を倒さなければいけないんだ」
「どうして」
「どうして…? お前は馬鹿か? あんなものがいるからこの世は崩れるんだ!」
「魔王がいなければ幸せだとでも?」
「少なくとも今よりはな」
 
 肩で息をしながらも、ボロボロになったルーフォンの体は、突き刺さった地面から剣を抜く。
 一瞬左右へ身体が振られていたが、そんなのも気にしている暇はないのだろう。
 それ以上傷つく必要があるのだろうか? 
 魔王がいなければ幸せかもしれない、しかし、本当にそれでいいのか。共存しようなんて思わないが、魔物すべてが悪いのだろうか。人間は何一つ悪いことをしていないのだろうか。この世界は狂っている。
 同じ生き物だというのに。

「そうか。ならやればいい。別に勇者じゃなきゃ魔王を倒しちゃいけないなんてルール、この世には存在しないだろう?」
「…どういうことだ」
「俺が勇者になったら、各国の王と顔を合わせてくる。どんな王がいるのか。本当に人間すべてが良いやつなのか。本当に魔物が悪いのか。そこを見極めてから魔物のいる地へ足を踏み入れる。その間にお前が魔王をやってしまえばいい。そしたら、今回の勇者は亀だって笑われ、お前は英雄。すげぇだろうが」

 そもそも、魔王が死んだからといって、魔物が全滅するわけではない。
 もしかしたら、魔物たちが暴れ出し、領地を気にせず人間をつぶしに行くかもしれない。そしたらこの男は、手を出してくる魔物すべてを殺しにかかるのだろうか。生きている魔物を、全てつぶす気なのだろうか。
 そんなのは無理だ。
 少なくとも、人間よりも魔物のほうが強いし長命だ。そう簡単にやられてなんてくれはしない。
 俺ら魔物からしてみれば、人間だって罪もない魔物を手にかける。魔物だからといって、差別をするように殺すだろう。人間も魔物も同じ。どちらが悪いかなんて、わからない。

「英雄か…そんなものいらない」
「じゃあお前は何がほしい。魔王が死んだところで、別の魔王が出てくるだけ。魔王が死んだところで、魔物がすべて死ぬわけではないんだ」
「知っている! それくらい知っている」
「これ以上俺とお前がやりあう必要があるのか?」

(魔王様、アマシュリ様。ご連絡です)
 
 ルーフォンと話している最中、ヴィンスから珍しくもテレパシーが入った。

作品名:満月ロード 作家名:琴哉