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満月ロード

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(大変大変大変だよ魔王!) 
 
 その声で、俺は闘技場の体へと精神が引き戻された。
 何が大変なのかと、アマシュリに話を聞くと、今さっきまで白髪長髪野郎が来ていて、どんな会話になったのかも話を聞いた。そのあと、何気なくトーナメント表を見ると、次の戦いがその白髪長髪野郎だった。
 しかも、あまりトーナメント表を見なかったから気付かなかったが、呆気なく決勝戦まで上り詰めていた。歯ごたえのなさに、今回強いものは、すべて白髪長髪男のほうに回っていたのだろうと、勝手に納得した。
 今までは、呼ばれたらいく。という形をとっていたから、どんな敵と戦うのか知らなかった。だが、これでどうしてあのタイミングであの男がやってきたのかが分かる。次戦う敵が、今何をしているのかが気になったのだろう。なのに、来てみれば寝ている。そりゃ忠告の一つも言いたくなるだろう。
 嫌な重みを背中に抱えたまま、待合室から出て行った。
 
 白髪長髪男はこの闘技場の中で、強いことから有名人となっていた。
 白きオオカミ。身長の割に、素早く。しかも、素早いのは動きだけではなく、魔術の使い方も巧みだということで、そう呼ばれていた。

「はじめましてルーフォン?」
「はじめまして。シレーナ」
 
 白髪長髪男というわけにはいかず、先ほど知らされた相手の名前を呼んでみた。すると、真似するように相手も俺の名を口にする。
 シレーナ。やはりどこかで聞いたことがある。どうしても思い出せない理由として、1000年以上も生きている所為だと、長命を理由とする。
 スタートの音が鳴った。
 周りの歓声を聞きながら、ルーフォンという男を見つめた。
 どこからやってくるのか。

「お前から来いよ」
 
 基本的に自分から攻撃するのが好きではない俺は、低く何処にでも逃げられるような体勢をとり、ルーフォンに向かってそう言った。
 すると、フンっと鼻で笑ったのち、地を蹴って走り出した。右手に持っていた剣を、左肩付近まで横に上げ、向かってくるその男の様子を見る。
 左から振るつもりだ。相手ルーフォンも、それが分かるようにあえてそうかまえたのだろう。にやりとほほ笑んでいるその口元が、そう言っているような気がする。
 体重をつま先に集め、左肩付近から斜め右に振られるその剣の上に乗るように、後ろにジャンプし、後ろに反った肩を軸に宙返りをして見せる。肩を軸にしてしまったせいで、宙返りが大きく後ろに行ってしまったが、避けるためには仕方がない。
 最初は腰を軸にしようと思ったが、想像より高めの位置を剣が横通る気がして、反射的に軸を後ろに持って行った。
 
「ちぇっ」
 
 本当は、宙返りをする際に、踵で顎から蹴り上げてやろうと思ったが、思ったよりもルーフォンの体勢が後ろに行っていたせいで、綺麗にすかしてしまった。

「頭は使うようだな」
「お前もね」

 馬鹿にするようにほほ笑むその姿が、逃亡に失敗した時のシェイルのあきれ顔に似ていて、ちょっとプチっと脳味噌が鳴った。
 シェイルとやりあったことはないが、きっとシェイルと戦っても、こう簡単に避けられるのだろう。
 じっくり考えている様子を与えないかのように、右下に振り下ろした剣のまま、再度俺のほうへ剣先を向けてくる。
 右下から左上。先ほどの逆だ。
 それを前にジャンプし、ルーフォンの真上に自分の頭が来るように宙返り、横切る際に短い呪文を唱える。初歩水魔術だ。
 水の玉が後頭部に向かって数個向かう。目だけで俺を追っていたからか、ルーフォンは左に肩を動かし、軽々とその魔術から避ける。剣のほうにまで気が行っていなかったのか、剣先に軽く当たったが、振り払われた。
 ルーフォンに背を向けるように着地し、簡単に避けられたことにムカムカしながら、ルーフォンのほうに向きなおる。

「初歩的だな。剣術も弱ければ魔術もあまりか。得意なのは身軽さだけか?」
「悪いけど、それも大きな武器だと思ってるんでね」

 魔王になるときだって、いろんな魔物を蹴落とした。別になりたかったわけではないが、俺の胸に刻んだ形見を手に入れようとしてきた魔物を、攻撃すべてを身軽さで避け、接近し強大な魔力で一匹一匹捻りつぶしてきた。踏みつぶすように殺した。その恐ろしさに、魔物たちは魔王にさせた。潰し始めて魔王になるまで数年経ったが、日々潰した。死した魔物の上で戦い、残骸を踏みつぶし続けた。
 血に染まった姿に恐れをなし、近付いてこなくなった魔物たち。別に俺はそれでもよかった。
 そんなとき、敵意がないシェイルが静かに足元に現れ、そっと手をとった。そこから魔王だと認識された。
 
 まさか、ルーフォンの一言なんかで、何百年も前の記憶が甦るなんて思わなかった。
 勝つ気満々のルーフォンは、俺に剣先を向けるのを止めなかった。避けつつ魔術を使うのにも、相当疲れてきているのが現実。魔術も、知っている中で強いのを使用しようとしても、その分の時間がない。
 ルーフォンも合間合間に魔術を使ってくるが、止めれるものは止め、避けれるものはとことん避けた。しかも、俺が知っているような基本的な魔術ではなく、実践として使ってきているようなモノばかりで、対処のしようがない。
 観戦していた際に覚えた魔術だって、実践していないから、あまりうまく発動させることもできず。だんだんイライラしていた。

「むかつく」
「お前も十分むかつくよ」
 
 ルーフォンの戦いでこんなに長引く戦いをしなかったからか、歓声が最初よりも強くなっているのが分かるし、ルーフォンを応援する声や、意外にも俺の名を叫ぶ者もいた。
 ちらりとアマシュリのほうを見ると、どうすればいいのか分からないような顔をしている。
 もうそろそろ強めの魔術を発動したいのは山々なのだが、そんな時間はいただけない。新たに編み出したかのように、適当に呟いて魔力を使ってもばれやしないだろう。
 そう安易に考え、力強く地を蹴り後ろに高くジャンプし、その間に魔術を省略させているように、知っているような呪文を引っ張り出してくっつけた。
 自分の真上に、魔力で大きめの水の玉を作り、呪文を唱えながら大きくしているふりをする。実際にこのような魔術はある。しかし、これとはまた違うし、威力はあまり期待できないもの。だがこれは違う。自在に威力なんか変えられるし、詠唱している呪文も違う。適当に省略してみせ、その玉を着地する前にルーフォンに向かって投げつける。
 驚いている様子のルーフォンは、身を守ろうと、何かの呪文を唱え、それに対抗する魔術をその玉にぶつけるが、水の中に入るのみで何の成果も上げられない。
 諦めた様子で、持っていた剣で身を守った。その瞬間、観客から審査員、待合所のほうまで全て静まり返った。
 水の玉が消えると、そこには剣を地にさし、魔術で薄い壁を作ったおかげでボロボロの中でも、何とか持ちこたえているルーフォンの姿があった。しかし、これ以上今までどおりの動きは出せないだろう。

「…なんだその魔術は…」
「開発した」
「…」
 
 威力の割に、短い呪文だった。そう言いたいのだろう。
 呪文なんてテキトウだし。なんて言えるはずもなく。
作品名:満月ロード 作家名:琴哉