彼女はいつものシニカルな笑みを浮かべ
「アイツはリベンジで140秒だもんなぁ……」
別に追い越そうとか、そんなことは考えてない。ただ、夢中になってキューブを回す彼女に好奇心が湧いただけだ。
何にも夢中になれない俺には、それが羨ましかったし。
だから、夕日に照らされた教室で、偶然彼女を見た時は――なんだろう。不思議と、気持ちが身体から離れて、勝手に動き出したような。水平線の向こう側が見えたような。自分の知らない世界への、扉を見つけたような――希望を持った。彼女の傍に居れば何かが見えるんじゃないかって。
とは言え、鬱陶しがられてるけど。
「……何やってるの?」
思わず苦笑していると声をかけられた。聞き覚えはあるけど聞き慣れてはいない声。
「うぇっ!?」
本を抱えて隣に立っていたのは果たして。俺が回想していた彼女だった。
「確かに図書室に行けば? とは言ったけど…そんなに律儀な人だったとはね。あんた」
「……見直した?」
「特には」
「ですよねー」
軽口を叩きながらさりげなく、隠すように後ろ手に。
「ところで、何でお前はここに?」
「ジャンケンで負けて。仮にも副部長なのにパシリよ」
抱えてる本は確かに服飾関係の本ばかりだった。手芸部で借りていた本を一気に返しに来たのだろう。
「だったらカウンターはあっちだぞ?」
「あ、本当だ。じゃあ……」
指さし教えてやると本の山を突き出された。
「……なんだよ」
「持ちなさいよ。重いんだから」
とは言え右手にはキューブ、左手に指南書を持っている俺としては手の貸しようが無いわけで。
「罰ゲームだろ?だったらお勤めは果たすべきだな」
「……罰ゲーム、ねぇ」
暗い声で呟いた。傲岸不遜な態度がデフォルトの彼女には珍しい行為で……なんだが落ち着かない。
「罰ゲームじゃないなら、何で一人で本運んでるんだよ」
「あんたには関係無いでしょ?」
「…………そりゃ、そうだけど」
何だか寂しい。彼女は自らの扉を固く閉ざしているような、孤立した小さな世界に閉じこもっているような、気がする。
「それで、背中に何を隠してるの?」
「隠す?」
作品名:彼女はいつものシニカルな笑みを浮かべ 作家名:♯はせ