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彼女はいつものシニカルな笑みを浮かべ

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翌日。金曜日。
手芸部では、彼女はクロスステッチをしているらしい。頼み込んだが作品は見せてくれなかった。

 「完成品じゃないから」

そう言っていたが、明確な線引きを感じてしまい、以来それについては何も聞けていない。
部員じゃない俺は流石に立ち入れないので、部室の代わりに図書室に行く。ドアを開けると冷房と紙の匂い。
この匂いは割と嫌いではない。
指定席という訳じゃないが、テスト前でもない限り図書室なんて司書さんと委員しか居ないものだ。一番端の自習机にカバンを置き、本を探しに行く。
……ルービックキューブを勉強しているのだ。
俺は途中まで読んだ実践的な指南書を手に取り、机に戻った。カバンを開け、3×3×3のキューブを掴む。あまり褒められた事ではないが図書室で練習しているのだ。理由は二つ。
一つ。家でやっていると妹に絡まれ集中出来ないから。
一つ。彼女は俺に「本を読んだら」と言うが、彼女自身が本を読まない事を知っているから。
手に取ったキューブは赤の面だけが完成していた。何せ買ったのはつい先日だ。本を読んでも実物をいじらないと意味が無いと気づいたのが一昨日だったからだ。そもそも、何で図書室にルービックキューブの本があるのかは分からないが。
今日はここから先。
ルービックキューブをヒント無しで完成させられればIQ130…という話だが、元より立体視が苦手な俺には大変困難なパズルだ。
ゆっくり指南書に従って回転させる。このパズルはあくまでパターン式。パターンさえ覚えてしまえばどうにかなる。見覚えのある形にさえ持っていけば後は記憶の通り、という寸法である。
静かな図書室に独特の音が響く。司書さんは耳の遠いお婆さんだからいいとして、委員は多分気づいている。面倒だからスルーしてくれているのだろう。
こういうのは苦手だが馬鹿ではない。本に従えば六面を揃えることは出来た。

 「問題は、こっからだよな……」
 
適当に回して色を混ぜる。混ざったところで本を閉じた。記憶を頼りに揃えてみる。

 「確か……こう?」
 
真ん中のピースは回転しても移動はしない。だからそこを中心に色を合わせる。とりあえずは赤を揃えよう。
一々確認しながらの作業なので酷く時間がかかる。やっと一面揃ったと思ったら二十分も経っていた。