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ひとりかくれんぼ/完結

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5月28日 03:24(金)




「バカか…」


 思わず口に出して呟くと、不意に背中からドンドンと言う振動が伝う。


『今井!?いんのか!』
「なに、君、今気付いたの…」


 ドア越しに井坂の声がした。どうやらポスト周辺でしゃべっているらしく、かなりクリアに声が聞こえた。俺の声に本当に気付いてなかったらしい。よっぽど混乱していたのか。それは俺も同じか。ドアにもたれかかったまま、話す。


「で、どうしてこんなことになってるの…」
『知らねーよ!ッどうなって…いったい』
「ねえねえ落ち着いてくれる?それと怒鳴んなくても聞こえるから、うるさい」


 そう静かに言うが、井坂は黙らない。


『ちげえんだよ!つか、俺…俺…ひとりかくれんぼ、とか…!』
「井坂くんが鬼なんですよね?何やってんの?ドアは?鍵かけてない?こっちからは開かないよ?」
『俺の方からも開かないっていうか…!多分、これ…違う、逃げられないようにしてあるんだ…!』
「どういうこと?っていうか、落ち着いて話せ」


 それは自分自身に言った言葉かもしれない。
 普段だったら、それが井坂の狂言というか、何かまたバカやってるなくらいしか思わないのに。それが今日は違う。何かがある、何かがいる。

 井坂は部屋に入ってからの出来事をドア越しに話し始めた。水に浸かった人形、赤い紐、付けっぱなしのパソコン、水溜り、足跡、そして、人形のテディベアについて、そのテディベアが妹さんのものであることについて。そして、「ひとりかくれんぼ」のルールについて。大体は察しがついた。
 おおよそをまとめると、昨日騒いでいたのは、妹さん。妹さんはラブホ代わりではなく、ひとりかくれんぼの会場にした。昨日の具合の悪さもそれで説明がつく。

「で、その妹さんとは連絡が取れない訳で?」
『ひとりかくれんぼをやって、まだ人形が回収されてないってことは…ななみは…』
「ななみさんが失敗した可能性があるね」
『…ッバカ、かよ…!何だって、こんな…』
「自宅に連絡を取ってみた方がいいんじゃない?緊急事態だし、妹さんの安否の方が先でしょ?」
『ッ…分かった…わかったよ』

 仕方なしにと言った風な声音で井坂が答え、ごそごそと音をさせた。しかし、すぐに井坂が声を上げた。

『電波がない…』
「はあ?」

 俺は素っ頓狂な声を上げた。思わず、自分のポケットの携帯を見たが、同じく、電波がない。
 そういや、こいつのブログに「検索すると電波が切れる」とか、そんな書き込みなかったか。くそ、という悪態がドア越しに聞こえた。

「どうする?」
『どうするもくそも…どうしたらいいんだよ』
「それ、とにかく終わらせた方がいいんじゃない?」
『ひとりかくれんぼを、か?』
「そう。ともかく今は君が鬼なんだよな?妹さんが失敗してるんなら、君が成功させろ。そうすれば出れるかもしれない」
『…ソースは?』
「イチかバチかに決まってるだろう。でも今のところ、思いつく方法はない」
『ですよね…あ、2ちゃん!』
「は?」

 井坂が思い出したかのように話し始めた。

『確かそれ、まとめスレ見た時に現行スレが生きてるらしかった!それ、2ちゃんねる発祥なんだよ!手がかりがあるかもしれないし、状況が状況でマジやばい。もしかしたら手を貸してくれるかもしれない』
「ネットリテラシー…」
『イチかバチかだろうが!』
「猫の手も借りたいってな。分かった、調べてきてやる。じゃあ一応やるのは待て。お前、そこで待ってられるか」
『…待ってられないって言ったらどうするんだ…待ってる。頼んだ』

 返事はせずに、立ち上がった。立ち上がった瞬間に立ち眩みがする。
 厄介な隣人のためになんで俺の睡眠時間が削られるんだ、意味分からん。と思いつつ、お隣さんが呪いの部屋とかになると嫌なので、早速、調べてみることにしてみた。と、その時だった。


 「ッ―…!!」


 アパートの階段付近に、人影が見える。薄暗い人影はこちらをじっと見つめている。俺は蛇に睨まれた蛙状態、思わず体が固まった。は?これって部屋の中でする遊びじゃねえのかよ…!思いながら、後ずさると、その影は、たん、たん、たんと階段を上がってくる。幽霊が外からもとか、どんだけだよ!悪態を吐こうと思ったその時だった、その人影が言葉を発した。


「あ、あの…」


 その声を聞いて、ようやく、幽霊じゃない、ただの人だということを認識。認識した瞬間、自分のびびりと情けなさ、それと安堵にため息を漏らした。恐らく、下の住人か。うるさくしたから文句言いにきたのか、俺のせいじゃないのに。しかし、階段を登ってきた影が、レオパレスの公共ライトの下に出ると、その人が…―その少女がうちのレオパレスの住人でないことに気付く。
 誰ですか、と、問いかける前に、その少女が口を開いた。





「あの、井坂サンの…お兄さんですか?」




 その小柄な少女は、視線を俺と301号室を交互にチラチラと見た。
 何か、知っているな。
 すぐにピンと来て、俺はその質問には答えずに、質問を返した。



「君は?」



 尋ねると、少女は少し戸惑い、戸惑うというか、躊躇するように言葉を詰まらせたが、やがて俯いて静かに答えた。






「愛川由紀子、井坂ななみさんの…友達です」