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ひとりかくれんぼ/完結

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5月28日 02:42(金)


★5月28日 02:42(金)
 今日は会計さんの家で楽しくマリカーをしているよ。私ゲームやらないんで全然歯が経たないぞぐぎぎぎぎ…!ひどい!ひどいわ!もうちょっと手加減してくれたっていいのにッ!マリカーは64時代は知ってるんだかなあ…無理。この人初心者相手に鬼畜すぎです。もう嫌です。ううう…。


 パチンと携帯を閉めると、会計さんこと今井志紀くんが俺をジト目で見ていた。

「君まだネカマブログ続けてるわけ」
「続けてる続けてる。もう日課だね」
「いつ釣り宣言するの」
「分からん、当分考えてない」

 チューハイをごくりと飲み干して、カンを勢いよく机に置いた。
 このブログは、最初は真面目な映画レビューブログだったのだ。真面目に書こうと思うあまり、一人称が「私」。ようやく人が着始めてにぎやかになってきた頃には、「私」との一人称で俺は女だと思われているらしかった。それを知ってからはわざと女っぽく書いたりしていたが、もう最近はフリーダム。好きなことを好きなように書いている、が、未だに男だとはバレていないし、それで困ることもなかった。

「会計さんが男ですって言ったらみんなショックだろうなあ」
「君のと同時にバラせばBLガチムチ!って騒がれるかもな。絶対嫌だからさっさと誤解を解いてね」
「ひどい!」

 今井の住む302号室で、俺たちはひたすら雑談をしながらマリカーをしていた。ブログに書いた通り、俺はゲーム関連はひどくへたくそだけれども、負けん気が強いのでひたすら今井に挑んでいた。

「で、妹さんの返信はきたの」
「いや、音沙汰なしだよおおおお、ばか!甲羅やめろばか!」
「ざまあ。ふーん、しかしすげーな、今時の女子高生は」
「そうだなあ。妹はおふくろ似で割と可愛い顔してっからなー…モテ…るうううう!赤甲羅やめろよ!」
「君の妹だとは思えないね。君の方が捨て子だったの」
「実子です!まあ、友達もたくさんいるみてーなことも言ってたし、モテるとも言ってたし…まあなあ…でもなあ…お兄ちゃんは複雑ですよ」
「心配だったら、実家に電話すれば?確実じゃん」
「それが出来たら苦労はしませんよ…お前が俺にピンポイント攻撃してこなきゃこんな苦労もしねーしな…」

 そうなのだ。それが出来れば俺だってさっさと実家に電話なり何なりしているのだ。
 俺は、只今絶賛勘当中なのだ。というのも言葉だけかもしれない。勘当の理由は至ってシンプル。行きたい進路があったが、親父に反対されたのだ。そんなに言うなら受験費・学費全部自分で工面しろ、と言われた高校3年生の冬。ここでもまた負けん気の強さで、頑張った。受験費用はバイトをしながら蓄え、1年生分の学費は祖父に頭を地面に擦り付けて頼んだのだ。祖父も最初は反対していたが、俺の懸命さに答えてくれ、俺の味方になってくれたのだ。実費で大学受験をし、学費も一応は揃え、これで親父も認めるかと思ったら大間違い。親父は俺を勘当だ!と怒鳴ったのだ。家をいきなり追い出され、そこから家庭内は一気に険悪に。俺も言われるままに家を出たが、すぐに祖父にそれが知れ、今の住居に住まわせて貰うことになった。レオパレス21、年間実質…これは伏せておこう。もっと安アパートでも良かったのだけれども。
 今はバイトをしながら祖父に金を返しつつ、教師へなるべき日々勉強…ときどき遊び。家には絶対に寄り付かない。というのも男の意地だ。強がりとも言う。

 そういう訳で、実家とは連絡が取れないのだ。母親はたまに家電でかけてくるし、妹はしょっちゅうメールを交わしていたから別にいいのだけれども、こちらから連絡はとてもじゃないが出来ないのだ。

 俺が言葉をにごらせている間に、今井はゴールをしており、散々今井から攻撃を食らった俺は最下位になっていた。もうやめたー、無理ーとwiiハンドルを投げ出そうと思ったその時だった。



 トントン、トン…



 小さな物音が俺の耳に入った。
 何かを叩くような音だ。

「あれ、もしかして誰か来た?」
「はあ?」
「ノック聞こえた気がする」
「気のせいじゃね」

 小さくてよく聞こえなかった。ゲームの音か?と、リモコンでゲームの音量を下げると、その音はより鮮明に聞こえてくる。


 トントン…トン…
 トン、トントン…


 今井と顔を見合わせる。今井は首を傾げていた。やはりノックの音がする。しかし、そのノックは302号室のドアからの音ではない。もっと遠い。

「君ん家じゃね?」
「俺ん家?客か?ドロボウ?」
「ドロボウはノックしねーだろう」
「なるほど」
「もしくは昨日の…」
「それだったら昨日の分の料金を頂きたいです」

 よっこいしょ、と立ち上がって持ってきた上着を手に持った。

「じゃあ、ついで、俺帰るわ」
「おう。帰れ帰れ」


 トントン、トン…
 トン…トントン…


「はいはい、分かったよ。今行きますよ。じゃあなー」
「あ…おい、井坂」
「はい?」

 302号室のドアを出ようとした途端、今井が声をかけてきた。珍しい、普段は見送りもしないのに。今井は何か言いたげにして、俺はそれを待っていたが、とうとう何も言わずに部屋に戻ってしまった。

「おおい、なんだよ!」

 今井は振り返らずに、そのまま見えなくなってしまった。恐らくロフトに上がってしまったのだろう。なんだっつの。俺はそのまま302号室を出た。
 そしてその301号室のドアの前に人…あれ?


 トントントン…
 トントン…トン…



 あれ、誰もいない…?