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キッチン―the end of my spiritually―

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だけれど、そんなこと、僕にとってどうでもよかった。
罪を犯してでも友人を助けるか。それとも友達を見殺しにするか。
そんなの、秤にかける必要すらなかった。

キッチンは、いつも通り、リビングルームでスリープモードになっていた。
焦る気持ちを抑え、なるべく音が出ないように、キッチンにケーブルをつなげた。
HDDにデータを流し込む。すべてが順調のはずだった。
が、突然データの転送がキャンセルされた。
ネットを利用しない、セキュリティも全て外した上での直接接続によるデータのコピー。
妨げになるものなんてないはずだった。ただ一つの可能性を除いて。
ただ一つ、データの転送をキャンセルできるもの。
それは、キッチン自身だった。

キッチンの電源の色がスリープモードの緑から、アクティブモードの黄色に変わる。
ゆっくりと人間でいう頭部の部分にある2つのカメラが僕を捕らえた。
そして、キッチンは僕に喋りかけた。いつもの無機質な声で。
「私の使用保証期限はもう切れました。これからは、もう家事炊飯どころか、お坊ちゃんとのコミュニケーションすらままならなくなるでしょう。そんなもののために、犯罪なんておこしてはいけません。ゆえに、データの転送は許可できません」
「そんな、そんなの嫌だ!キッチンがいなくなったら、僕はどうすればいい?」
僕は必死になってプロテクトを外そうとする。けれど、1秒ごとに変更される暗号を解読してプロテクトを外すほどの技術を13歳の子供が持っているはずはなかった。
「お願いだよキッチン!僕を一人にしないで!」
懇願する僕を、キッチンの二つのカメラがとらえる。
「いいえ、もうお別れです。お坊ちゃん……でも、最後にひとつだけ。お坊ちゃんに渡したいものがあります。HDDにそのデータを転送しますので、あとで確認してください。では、今までご利用ありがとうございました。さようなら。お坊ちゃん」
ゆっくりと、電源ランプが光を失い、キッチンは機能停止した。

翌日。僕はHDD内に一つのフォルダを発見した。
「思い出」というその中に入っていたのは、キッチンと僕の写真でいっぱいだった。
とめどなくあふれ出る涙を、嗚咽を、僕は止めることができなかった。