キッチン―the end of my spiritually―
僕がキッチンと出会ったのは、忘れもしない、東京に引っ越してきてきた時だ。
ピカピカに輝き、どっしりとしたその大きさに驚いたのを覚えている。
キッチンってのは、日本語で言う台所。
それしか頭になく、ほかの可能性など考えたこともなかった。
でも、それだけじゃなかった。
田舎者の僕には知らない”キッチン”が目の前にあった。
「人型家事炊飯支援ロボット」
通称 ―キッチン―
僕は、生まれて初めてロボットに出会った。
キッチンは、両親が共働きな上に、引っ越したばかりで友達がいない僕にとって、貴重な話し相手だった。
ごくたまに変な返事をするキッチンだったけれど、そんなことはどうでもよかった。
そばにいてくれて、
僕が見ている物を一緒に見て、
うなずいてくれる。
そんなキッチンは、僕にとってかけがいのない存在だった。
学校から帰り、家のドアを開ける。
そうすると、必ずキッチンは僕を迎え入れてくれる。
無機質な声で、キッチンは
「おかえりなさい、お坊ちゃん。今日はいかがなさいますか?」
という。
ただ、話をしてくれる。それだけの事なんだけれど、それが僕は無性に嬉しかった。
(一人じゃない。キッチンは待っててくれている)
今まで苦痛だった留守番が、キッチンのおかげでつらくなくなった。
しかし、キッチンと出会ってから3年。
僕ら家族の引っ越しが決まった。
てっきり僕は、キッチンも連れていけるものだと思っていた。
しかし、お父さんは首を横に振った。
キッチンは、もう古すぎて故障寸前だったのだ。
僕は、何も言うことができなかった。
このとき、僕はまだ13歳。
まだ13年しか生まれてから経ってなかった。
厳格な父親に意見するなんて事、できるほど度胸もなかった。
でも、もう13年も生まれてから経っていた。
自分の大切な存在を守りたいと思う強い意思を持ち合わせてもいた。
僕は、とにかくキッチンを失いたくなかったんだ。
深夜、お父さんとお母さんが寝静まった後、僕は作戦を実行に移した。
今まで貯めていたお年玉、貯金を総動員して買った250テラバイトのHDDをわきに抱えて、キッチンのもとへ向かった。
僕の計画はこうだ。キッチンを助ける方法。それはキッチンの人工知能をHDDにコピーするというものだ。
これは日本政府が定める人工知能保護法に違反する重罪だ。
作品名:キッチン―the end of my spiritually― 作家名:伊織千景