唯一神
そんな実りあるのか実りないのかよくわからない特訓の毎日が1年ほど過ぎたある日。
当時俺は13歳。
夕食の場―。
いつものように狩った獣の肉と毎日おっさんが町の市場まで買いに行った野菜や穀物の晩餐。
いつも饒舌なおっさんが一言も口を開かない、いつもと違う空気が流れていた。
「なんかあったの?」
1年の間に俺はこんな会話が出来る程度におっさんとの絆を深めていた。
「いや、うーん」
全くおっさんらしくない、こんなおっさんはおっさんじゃない。
「世界に絶望した?」
ここはあえておっさんの口癖の言葉を用いてみる。
「ん? はっはっは! なんだそんなにお前を心配させちまってたみたいだな!」
ようやくおっさんらしさが戻ってきた。
「絶望、した?」
「してねぇよ! ガキが馬鹿いってんじゃねぇ!」
更に何か決心がついたような顔で切り出した、しかし笑みは消えて・・・。
「急な話だが、明日実戦だ」
「え? じっせん?」
実線? 実践? 十戦? ・・・実戦っ!?
「そうだ、実戦だ。今までお前は人相手に戦闘をした事がないだろ? それでどう切り出したモンかと思ってたんだが・・・」
「ちょちょちょ、ちょっと待てよおっさん! え? 何だ? 実戦っていうのは・・・人と戦うのか? そんなの・・・!」
「勘違いするな!」
おっさんは、本気だ・・・。本気の時のおっさんだ・・・。
この威圧感、風も無いのに寒気がするような、触れていないのにグラスの水面が揺れるような・・・。
「人と戦うんじゃねぇ、人を・・・殺すんだ」
「!!」
そんな馬鹿な・・・。そんなストレートな物言い・・・。どういう事だよ・・・。
「その為にお前を育てた。ここで曖昧な事言っても仕方ねぇだろ。現場で臆されちゃ迷惑だ」
つまりは、そういう事・・・。
おっさんはここで俺がどれだけ駄々をこねても現場に連れて行く・・・。
更に言えば明日までにこの気持ちに打ち勝てと言ってる・・・。でも!
「そんな人間を殺すような真似! 俺には!」
「お前が毎日触ってきたものはその為の道具だ!! 遊びじゃねぇんだ!!」
「でも! 俺にはできっこな・・・!」
「出来る!! 獣と一緒だ!!」
「違う! 全然ちが・・・!」
「割り切れ!!」
「・・・!!!」
割り切れ・・・? 何を言い出すんだよ・・・。
第一、人を殺したら、殺したら・・・!
「それこそ世界に絶望してしまう!!!」
「やらなければ、お前が殺られるんだ・・・!」
腹から絞り出した声、何かをこらえて、必死にこらえて、絞り出した声・・・。
もう俺は何も言えなかった。夕食も大半残し、俺は寝床についた。
雨漏りでもしてるかのように、枕が濡れた・・・。
「明日は、お前が思っている以上に残酷な日になる・・・。まだだぞ。まだだ。世界に絶望するなんて思うには、お前はまだ若いんだ・・・。生きろよ・・・」
そして急遽知らされた決戦前夜だった日は、ゆっくりと過ぎていった・・・。