唯一神
食卓からは香ばしい、いい香りが漂っている。
外に目をやると、今日も雨が大地を濡らしていた・・・。いつもの朝だった。
食卓の場、俺は一口も料理に手をつけれなかった。
今朝に見た夢のせいか、今日これから人殺しという大罪を犯すことへの恐怖か、はたまたプレッシャーか。
ともかく食欲がわかないし、食べたくなかった。
すると視界にスプーン? ソレはどんどん俺の口に近づいてきて?
無理矢理口を開かせ胃の中に押し込まれた。おっさんよ・・・。
「ッ・・・! 何するんだよ!」
咳き込み、涙目になりながらおっさんを睨みつけるとキョトンとした顔で口を開いた。
「お前を殺すわけにはいかないんでな」
「喉に詰まって先死ぬわ!」
はっはっはと笑うおっさん、ソレ食えヤレ食えなんて振りを交えながら・・・。
「いいよ、食欲が無いんだ」
「いーや、お前の脳はそうは言ってないんだよ。食え! 力を出し切る環境に身を置く事が大事なんだ。分かったな? まして、昨日もろくすっぽ食って無いんだ。さぁ食うんだよ」
ずるいぞおっさん・・・そんな言われ方したら、もう何も反発できないじゃないか。
どこからそんな圧迫するような空気をかもし出せるんだよ、全く。
結局俺は出された朝食を全て平らげた。うまかったよ、最後の食事も・・・。
―約束の刻、俺とおっさんは地下室にいた。
あのやけに扉の多いこの一年の大半を過ごしたあの部屋に。
なんだか全てが遠い過去に思えてくるよ。
左の壁の4つの扉。アレはそれぞれの用途に合わせた訓練場への扉だった。
射撃、ファイティングナイフ指導、道場、擬似戦場。
色々あったなぁ・・・。
向かいの壁の5つ扉。アレは獣相手の戦闘に使う扉だった。
森林、川、草地、丘っぱり、崖。
通路から出たらいつも違う風景が目の前に現れて、少し楽しかった。
で、多分今から使うのであろう右の壁の5つの扉・・・。
今まで使ったことが無かった扉。
この先はどんな景色が広がるんだろう、そんな高揚感も今日起こる事態を前にしては萎んでいく一方だった。
なんだろうか、この5つ扉は・・・実戦用の扉といった所なんだろうか、よしてくれよ・・・。
「今日使うのはこの扉だが、実は全て同じ場所、というか建物に通じている。いろいろマークされてるからな!」
こんな時でもはっはっはと笑うおっさん・・・と、そんな事より。
「同じ建物に通じている? どうしてそんな無意味な事を?」
「深い意味はねえよ、出口付近に人が少ない道を選べるってだけで作った5つの道だ」
「へ、へえ・・・そうなんだ」
さぁお喋りはここまでだと言って一番右の扉に手をかけ、進みだす。