異説オリオン神話
「そんなことはない。私の矢は百発百中だ。見ていろ」
兄の挑発にむっとしながらも、アルテミスは矢をつがえた。
風を切り、矢が走る。そして見事光に命中した。そして、響き渡る野太い絶叫。
「この声っ、まさかオリオン!?」
「えぇ、なんだって!? いや、すまない。ほんと、こんな変な生き物見たことなくて」
兄を無視し、アルテミスは妖精に頼んでオリオンを岸まで運ばせる。心がはやり、足をもつれさせてアルテミスはかけよった。
「ああ、オリオン、オリオン、目を覚ましてくれ」
オリオンを抱き上げ、がくがくゆさぶる。矢ガモな頭から血がぴゆーと噴出した。
「お、おねぇさ、ま?」
「オリオン!」
オリオンがうっすらと目を明ける。そろそろと手をあげ、アルテミスの頬をぬぐう。しかし涙は後から後からとめどなくあふれて止まらない。
「泣かないで、お姉様。あたし、お姉様の手にかかって死ねるなんて、最高よ」
「そんなこと、言うな。言うてくれるな」
オリオンの手を両手でとり、アルテミスは首を振る
「あたし、あたしね、お姉様と一緒に夜空を彩る星になるの」
「なにを言うのじゃ、そなたは昼も私と一緒だ」
「ずっとずっとお慕いしております、お姉様」
「オリオン?」
するり、とオリオンの手が落ちた。
「オリオーーーン!!」
月の女神の叫びが、クレタの空を突き抜けた。
ゼウスは全知全能の神である。しかし、今回のことは想定外であった。いや、オリオンが死ぬことではなく『オリオンが星になること』である。ぶちゃけ、星になるのはゼウスの力でないとできない。そして、オリオンは勝手に決めてしまった。ここでもし「えー、めんどくせー」なんて言おうモンならアルテミスにぶっ飛ばされるどころではすまない。自分がお星様になってしまう。
ゼウスはしぶしぶオリオンを空に上げた。
それからというもの、アルテミスはオリオンをしのぶかのように、フリフリひらひらの服を着、筋トレするようになった。ついでに言うと、アポロンはもう二度と妹に頭が上がらなくなっていたりする。
オリオン、あたしの可愛い妹。見ていてね、あたし、立派な神々のお姉様になってみせるわ。
こうして、アルテミスは今日も筋トレに励むのだった――。