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怖いかも知れない話

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 ビルが立ち並び、古びたものは何もないオフィス街。土地の謂れを示す碑など見当たらない場所だが、忘れていた過去の『重み』を思い出し、私は帰宅してとりあえず気休めに塩を撒いた。独り暮らしの身に要らぬ恐怖感は迷惑なこと此の上ない。しばらくは夜通しテレビが点いていた。
 『重み』を感じたのは今のところ一回。以後もその道を使って通勤している。




 何かわからないものは漠然とした恐怖でしかなく、わが身にも他方にも災いをなすことはない。テレビや音楽がないと眠れない日々が続き、その弊害で毎月の電気代が少し上がるだけだ。
 本当に恐いのは、実は血も肉もある現実の人間自身なのだと、最近巷をにぎわす怖い事件を見るにつけ思い知る。
 それより何より「ひどいニュースだ」と思った事柄も、次々と起こる事件に記憶が塗り替えられ、いつの間にか「あの事件は、今年のことだったのか」と忘却する自分自身の慣れが、私は怖くてならない。
作品名:怖いかも知れない話 作家名:紙森けい