クッキーせんべいチョコレート
side A[an ordinary days]
ほれ、クッキーを二枚こうして丸いまま頭に立てるとな、”クッキー・マウス”になるんじゃよ!!
「すごいやっ、おじいちゃんっ!」
「……センスのカケラも感じられないんだけど」
「そんなことないって! ナッちゃんがキビしすぎるんだよー」
はははっ、参ったなー。未だにナッちゃんから褒められたことないからな~。いやぁ、笑いの道の何と厳しいことかっ!
「……いつからお笑い芸人になろうと思ってたのよ?、おじいちゃんは」
そりゃぁもう七十の誕生日にな、朝起きたらぽわぁ、と笑いの神とやらがわしの前に現れてな、「笑わせろーい、わらわせろぉぉ~いぃ」と背後からず~~っと呟くんじゃよ!
「おじいちゃんはえらばれたんだね!」
「……もはやホラーでしょそれ」
はははっ。それからじゃよ、お前さんたち二人がちょくちょく来てくれるようになったのはのぅ。
「だから、いつも僕たちを笑わせようとするんだね」
そうじゃのう、お客さんはいつも二人じゃな。なかなか頑固で芯のあるお客さんが手ごわいがのぅ、ふははっ!
「頑固って言わないでよレディーに!」
おっと、こりゃ失言じゃ。すまんすまん。
しかしな、二人とも聞いとくれ。さっきからわしら三人でバリバリッと齧っとるせんべいがあるじゃろう。
「おじいちゃんの焼いたせんべいは最高だよね!」
「確かにおいしいけど、噛み砕くのが大変だわ。すんごく硬いんだもん」
あぁ、その硬さが大事なんじゃよ。どんな時もな、生きてるときは色々あるもんじゃが、どんな時でも、わしのせんべいのように、簡単には砕かれない頑固さを心の中に持っておくんじゃよ。簡単に砕かれては駄目じゃ。
「頑固すぎるのも困りものなんじゃないの?」
ふむ。そういう時もあるがの、いざというときにものを言うのは、簡単には割れない自分じゃよ。挫けては駄目じゃ。多少失敗したって構わん。砕かれても呑み込まれなければまだまだいけるもんじゃよ。
「それでものみこまれちゃったら?」
一巻の終わりじゃなぁ。
「意味ないじゃないっ、今までの話!」
まぁ、そうなったら次のを新しく焼けばええんじゃよ。いくらでも新しく焼けばええ。きっと何度も焼いているうちにより硬く、砕かれないようになっていくじゃろう。
「それならカンペキだよねっ!」
「しゅう、よく考えてものを言いなさいよアンタ。硬すぎて食べられないせんべいは、もはやせんべいじゃないわ。ただの円板よ」
うぬぅ。ナッちゃんは頭がええのぉ~。まぁ、その辺はしゃあないんじゃよ。
「開き直った……」
「でもでも、”せんべい・マウス”ならできるよね?」
「もはや原型がないじゃない!」
それもまた人生じゃよ!
二人に頼んでおこう。わしの墓が出来た日にはな、二人して墓の前でせんべいをバリバリっと食っとくれ。元気よくじゃぞ? わしはな、せんべいを食べる度に『もっと力を入れろ! 歯をしっかり閉じるようにして噛み砕け、そんな調子でどうする!?』と励まされる気分になるんじゃよ。
「重症ね。精神科医に行ったほうがいいんじゃないの?」
はははっ、相変わらず手厳しいのぅ~。
「つまりせんべいがオウエンしてくれるんだよね?」
そうそう、しゅうの言うとおり、応援してくれるんじゃ。
「あたしたちがせんべいを食べて何が面白いのよ? おじいちゃん死んでるって言うのに」
「えっ? おじいちゃんって幽霊?」
「……ばかしゅうは黙って。どうなの?」
まぁ、趣味じゃよ。
「………………。そろそろ日暮れだからあたし帰るね」
「あ、それなら僕も帰るよ。一緒に帰ろー」
ありゃりゃ。もうそんな時間じゃったか。
ほれ、二人とも、いつものお土産じゃ。大好物じゃろ。
「ありがとー、おじいちゃん! また明日ね! バイバイ!」
おぅ、また明日じゃな!
「いただきます。じゃあ、明日にはもっと面白いこと考えておいてよね、さようなら」
ははっ。この歳になって宿題とはのぅ~。頑張るよぅい。
まったくなぁ、ナッちゃんはお土産渡すときにしか満面の笑みを見れんからなぁ~。まだまだ修行が足りんのぅ、わしも。
もう後ろ姿も見えん。子供の足は速いのぅ、やはり。
あの二人が、何年先になっても、あぁして仲良く手を繋いでいられたら、わしも恋のキューピッド役になれて満足なんじゃがのぅ。
どうやらもう、見届けられないのぅ。
この人生の最後の数年間、あんなに可愛い子供に囲まれて、わしは幸せじゃった。
あぁ、いい人生じゃったよ。
作品名:クッキーせんべいチョコレート 作家名:空創中毒