飛んで魔導士ルーファス
エピローグ
ルーファスが月に向かって数日が過ぎ去り、クラウスとエルザはキッチンでお茶とドラ焼きを食べながら団らんしていた。
「僕だったら最初から好きなレディを手放しマネしないよ」
「クラウス様は少し女遊びが過ぎます、もう少し立場をわきまえてください」
「レディを大切にするのは男の義務だろ。それに……本当に愛してる女性はこの世に1人だけさ」
「えっ?」
驚くエルザにクラウスは爽やかに笑いかけた。
そこで唐突に現れた謎の女。
「ふふっ、青春だな!」
カーシャだった。
ニヤニヤしながらカーシャはエルザを見つめた。
「エルザ、お前も新しい恋を見つけたようだな、ふふっ」
次の瞬間、エルザは刀を抜いてカーシャの首元に突きつけていた。
「からかうと容赦せぬぞ!」
「まあ、良いではないか。ルーファスにも春が来たのだからな、なあルーファス?」
カーシャの振り向いた先ではルーファスがカップラーメンを食っていた。
「か、からかわないでよ!」
「からかうぐらい何が悪いのだ。誰のお陰で助かったと思っておるのだ」
「まぁ、あの時は本当に死んだと思ったよねぇ」
「悪魔の契約は絶対だ。だからモリーは時間稼ぎをしてたわけだ。月に身を隠してルーファスとビビの契約が解けるのを待ってたわけだな。妾にはあの女の考えなどお見通しだったがな……ふふっ」
月の上で力尽きたルーファスは鼻から鼻水グジュグジュで、ティッシュでもないかとシルクハットに手を突っ込んだ。すると、ちょうどいい紙切れが出てきたではないか。けれどルーファスはその紙切れをまじまじ見つめて鼻をかむのをやめた。
紙切れにはこう書かれてあった。
――これを読んでる頃はきっと1枚目の手紙を捨ててしまって、苦戦して死にそうになってるに違いないな、バカめ。そこで、そんなへっぽこのために取って置きの秘密兵器を今なら特別特価の2万ラウルで売ってやろう。しかも後払いでいいぞ。で、その商品というのが――。
ルーファスはこのメモを読んで思わず叫んだ。
「この商品買った!」
この声に反応してシルクハットの中から何かが次々と飛び出した。
ルーファスはガッツポーズをしながら前方を歩くビビたちを引き止めた。
「契約成立だ、ビビをさっさと渡せ!」
ルーファスの声を聞いたモリーとマルコはまさかという表情をして振り向いた。
そして、最後に振り向いたビビは顔一杯に笑顔を浮かべ、マルコ制止を振り払ってルーファスのもとに駆け寄った。
「ダーリン!」
「ビビ!」
2人は母なるガイアの見守る月の上で抱き合った。
そう、山積みにされたドラ焼きの前で……。
カップラーメンをルーファスが食い終わると、廊下を誰かがドタドタと走って来てキッチンに駆け込んできた。
「ダーリン!」
やって来たビビはいきなり足を浮かせてルーファスの身体に抱きついた。
「抱きつかないでよ、僕は君を妻だと認めた覚えはないんだから!」
「なに言ってるのダーリン。ちゃんと本契約結んだじゃん!」
「あんな紙切れに僕のジンセー決められるなんてやだよぉ」
ふわりとスカートを巻き上げながら地面に下りたビビは、どこからともなく契約書を取り出してルーファスの鼻先に突き付けた。
「控え居ろう、この契約書が目に入らぬか!」
「入らないよ!」
と威勢がいいのだが、ルーファスの表情は明らかに脅えていた。
どんよりとジメジメ空気が部屋に充満し、息をするのも苦しいほどだ。
ビビの持つ契約書が風もないのに激しく揺れる。
ルーファスは本能的に脅え、壁に背中をつけてぶるぶる震えた。
「ダーリン、逃げても無駄だよ……あはは♪」
まさにビビが悪魔の笑みを浮かべた瞬間、ルーファスは契約書から出てきた黒い影を見た。しかし、そこで記憶がプッツリ。
「ギャァァァーッ!」
――あ〜んなことや、こ〜んなことが行われているため、描写を控えることをご了承ください(ペコリ←頭を下げる音)。
「ウギャァァァーッ!」
「ふふっ、青春だな!」
ビビとルーファスがドラ焼き100個で交わした契約は絶対なのでした。
奥様の名前はビビ、そして旦那さまの名前はルーファス。
ごく普通の二人は、ごく普通の恋をし、ごく普通の結婚をしました。
でも、ただ一つ違っていたのは、奥様は仔悪魔だったのです。
おしまい
作品名:飛んで魔導士ルーファス 作家名:秋月あきら(秋月瑛)