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漆黒のヴァルキュリア

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エピローグ



「うをおおおぉぉおおぉぉおぉぉぉぉぉっ!」
 大地を揺るがす雄叫び。
 ヴァルホル――勇者の館――の中庭で、ヴォルケェノ斉藤が、完全武装した古参のエインヘルヤル千人を相手に、レスラーパンツ一丁で大立ち回りを演じている。
 ヤツが唯一持っていない美少女フィギュアをフギンとムニンに入手させ、それをエサにした結果だ。正に一騎当千。ヤツ一人で、並のエインヘルヤル千人分の働きが期待できる。エサも安く済みそうだし。
 今、俺は『えな』を伴って、フレイヤ女神へ今回の『報告』に来ていた。
「……そっちはどうスか? 姐さん?」
 俺は視線を移し、紳太とチェスに興じているフレイヤを見やった。
「ちょっと待ちいな! 今……」
「……チェックメイト。もう逃げられませんよ?」
 淡々とした紳太のセリフに、
「……」
 戦の女神は沈黙した。どうやら、たった今勝敗が決定したらしい。
「うが〜〜〜〜〜っ!」
 刹那、フレイヤはチェス盤をひっくり返す。『特番! 探検隊は勇者の館でイッテツを見た!』ってカンジの光景だ。どうでもいいが、大人げねぇなぁオイ。紳太のヤツ、チェス盤デコに食らって昏倒してるじゃねーか。
 ――紳太、大丈夫だ。俺たちエインヘルヤルは、ほっといても夕方には生き返るから――
 などと思っていると、不意にフレイヤが吼えた。
「わーーーった! コイツラはほんまもんや! ほんまもんのエインヘルヤルやと認めたろうやないの!」
 フレイヤは俺の顔を半ば睨み付けると、すぐ傍まで歩み寄ってくる。
 すぐ傍で相対する俺と女神。
「せやけど!」
 ふっ、と、それまで険しかった女神の口元が緩む。
「……ザンネンやけど、今回はあんたの希望叶えられへんわ。ウチの条件クリアしてへんねやろ? な? な?」
 ザンネン、という言葉とは裏腹に、フレイヤは勝ち誇ったように満足げに微笑んでいた。
 まぁ、そうだろう。案の定、といったところだ。確かに俺は、フレイヤの条件を満たしていない。こうして、エナに俺の正体がバレちまっている。
 とはいえ――
 少々、俺には疑念もあった。
「姐さん……今回の件……ひょっとして、俺達が生前に面識あったって、知ってたんスか?」
 呆れ顔を作りながら、そう訊いてみる。そこまで知っていたのなら、かなりの策士だこのアマ。
 するとフレイヤ女神はにんまりと笑った。
「まぁ、そーゆー深い間柄かまでは分からへんかったけど……前にあんた達に書いてもろうた履歴書の住所が同じ町やったさかいにな〜……ひょっとすると……とは思ぅとったな〜……ま、大当たりやったワケや」
 言って、女神は『ニヒ!』っと無邪気に微笑う。カワイイつもりか?
 ――そういや、本採用時に書かされたな、そんなの――
 思わず俺は筋目になる。どーでもいーが、個人情報、ちゃんと管理してくれてんだろうな?
「……なるほど。まんまとソレに乗せられた、ってワケか……」
 俺は一頻り後ろ頭を掻くと、改めて女神を見据えた。
「んん〜……あんまり悔しそうでもないんか……ちょっと残念やなぁ」
 言葉通り、心底残念そうな貌を見せる女神。真性のSだろアンタ?
 だが、そんな事はどうでもいい。そんな話をしたいワケでも、文句を言いたいワケでもない。俺はただ、欲しいものがあるだけだ。だから、ここから先は、単純な駆け引き。
「まぁね。ただ、今回は二人も『超』が付くほどのエインヘルヤル追加して、俺もそれなりに苦労したワケッスよね? それは間違いないでしょ?」
 言って、俺はヴォルケェノ・斉藤と戸川紳太を指差した。
「……ま、まぁ、それは否定せぇへんけど……なんや、褒美が欲しいんか?」
 何かを警戒するように、フレイヤの眉根が寄る。
 今度は俺が笑う番だった。
 俺は無言で、傍らの恵那の腕を引く。
「えっ? ちょ、な、何っ?」
 前に引き出され、恵那は驚いて俺の顔を見つめた。
 だが、それに構わず俺は女神に向けて口を開く。
「褒美、コイツ下さい。他にはなんにもいらないんで」
 そのセリフに、フレイヤはしばし唖然としたが――
 ――不意に口元を歪め、奇妙な笑顔で何かをガマンしている様子を見せた。まるで猫好きな女の子が、捨てられた子猫を見て抱きしめるのをガマンしているような、そんな感じだ。
 と、不意に女神が喜色を見せる。
「あ〜! やるでやるで! そんなやっすい褒美やったらいくらでもやる! あんたみたいな優秀なエインヘルヤル繋ぎ止められるんやったら、かっわええヴァルキュリアの何人でも付けたるわ」
 だが、そんなフレイヤの言葉の直後――
 めり……っ!
「ぐおぅほあっ!?」
 俺は左頬に鋭い打撃を受けて、五、六メートル吹っ飛んでいた。――五、六メートルで済んだのは、石柱に激突して止まったからだが――
 ――ナニゴトデスカ!? ――
 直後に顔を上げると、視界に入ってきたのは、見慣れた見事な金色だった。
 今度は『エナ』が口を開く。
「何が『くれ』だ! 死ねバカ響七郎! ……フレイヤ様っ? 恵那はいいかもしんないけど、オレは納得できないしっ!」
 エナの必死の抗議も、フレイヤからはただ一つの態度しか引き出せなかった。
 それは、いやらしい笑い顔。それだけ。
 フレイヤは口元に手を当てて、ニヤニヤと微笑っている。
「あ〜あ〜、テレんでもえーて。前例はいくらでもあんねん。シグルズとブリュンヒルドとかな?」
「そーじゃなくて!」
 困惑を顔に貼り付けて、両腕を振るエナ。なにやら必死なご様子。
「あ、それともあれか? 「ヴァルキュリアの何人でも〜」のあたりが引っかかったんかいな? ちょっと軽いパーティージョークやんかぁ、空気読めへん娘やなぁ」
「ち・が・い・ま・す!」
 中指を立てて、額に青筋を立てるエナ。おいおい、オマエの上司だろ?
「……ん? ほんなら、恵那はえーけど、エナは響七郎が嫌いなんか?」
 そんなフレイヤの言葉に――
 ――エナは、不意に語気を弱めていく。
「きっ、嫌いじゃないけどっ! そ、その、いきなりくっつけられても、戸惑うっていうか……物じゃないんだし、くれとかやるとか。……オレは、もうちょっとこう、順序踏んで付き合いたいっていうか……」
 言葉尻で、エナは再び歩み寄る俺の顔を見つめた。その色白の顔が、一瞬で真っ赤になる。
「……あんたはそれでええ?」
 その様子を見ていたフレイヤが、穏やかにそう言った。
 俺は苦笑しながら頷く。
「別に、形はなんでもいいッスよ。俺はただ、姐さんの許しが欲しかっただけだから」
「んん〜もぅ! このコったら律儀なコやなぁ! 自由にやってくれたらええやないの〜! ウチ、そんなん邪魔せぇへんて〜!」
「ぶふっ!」
 刹那に俺は、女神の胸に顔を埋められていた。よせ! 窒息する! それに、それに……
「響七郎〜〜〜〜?」
 傍らで、ゴリゴリと拳を鳴らす音が聞こえる。
 ――いやエナ? 状況ちゃんと見ろよ? 俺が自分からやってるワケじゃないだろ? ――
「ボクというものがありながらぁ〜〜!」
 ――恵那の方でしたかっ? ――
『新技試すときが来たようだね? 奥義! ら〜いげ〜きけ〜〜〜ん!』
 ――合体技かよっ!? ってか、もうい、息が――