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漆黒のヴァルキュリア

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第二章 恵那の面影 7



 結局のところ、直接エナに訊いても、何も得られずに終わった。
 まぁ、半分は予想していたコトだが、その本質がどっちであるのかまでは分からない。すなわち、知ってて隠しているのか、本当に知らないでいるのか、という事だ。とはいえ――
「どう思う?」
 俺は紳太にもエナからの手紙を読ませてそう訊いた。
「しらばっくれてる……とは思えないんですよね。あの人――金髪のエナお姉さんは、単純そうな人だし」
「激しく同意だな」
 俺は苦笑を紳太に向けた。
「だったら、他に知ってそうな人って言えば?」
 紳太の問いに、すぐ思い浮かんだのはヴァルキュリア達の主の顔だった。
「フギン、フレイヤ姐さんに繋いでくれ。話がしたい。あー、説明がメンドくさいから、紳太はフギンの後ろにいてくれ。反転して見えるだろうが、お前にも様子は分かるハズだ」
 言って、俺はフギンを肩から下ろし、目の前の地面に置いた。紳太は指示通りにフギンの後ろに陣取る。
「それではいきます」
 そう言うと、フギンは両の翼を目一杯に広げた。そしてその上に、ホログラムのようにおぼろげな、半透明の映像が浮かぶ。
「お、なんや、爆裂のエインヘルヤルやないの。どないやの? 調子は」
 ブロンド白人美女が喋る関西弁。そのギャップの為だろう。ホログラムの向こう側で、紳太が笑いを堪えているのが見えた。
 だが、それは意に介さず、俺は女神の不意をつく事にした。
「フレイヤの姐さん、俺になんか隠してるコトないっスか?」
 その問いの後、一瞬の沈黙があった。
「……なんの話? 全然見えてきぃひんねんけど」
 全く持って、平然とした様子で女神はそう訊き返してきた。さすがだ、と思う。このヒトのこういった所は、素直に賞賛に値する。しかし、言葉を返す一瞬の沈黙は、何かを知っていると肯定したも同然だ。それに、この女神は意外にプライドも高い。『いわれのない疑念』を向けられたのであれば、ただ平然と訊き返すのもおかしい。
「春日恵那――黒髪のエナのコトっスよ。エナが自分で名乗ったのに、アイツは何も憶えてない。姐さんなら、何か知ってて当たり前っスよね?」
 真顔で女神を真っ向から見据え、俺はそう訊いた。
 が――
「ぷっ!」
 フレイヤ女神は、可笑しそうに笑い始めた。
「あ、あんた、それ知らんかったんかいなっ? あのコの二つ名、あんたも知っとったんちゃうのっ? 漆黒っちゅーんは、そこから付いた二つ名なんやでっ?」
 一瞬の沈黙。俺は二の句が継げない。が、確かにそれなら納得ができる。エインヘルヤルにしろ、ヴァルキュリアにしろ、二つ名を持つ者は、大概ハデな特徴を持っている。俺もエナのヤツが電撃魔術に秀でているというのは知っていた。だが、『漆黒』の二つ名の意味を考えた時に、その意味する所には、俺はいつも辿り着けなかった。
「ま、そーゆーこっちゃ。納得したん? ウチも忙しいさかい、もー切るで? ほな、頑張ってなぁ」
 言って、刹那に女神の姿は掻き消えた。
 そして、消えた女神の裏から――
「やれやれ、ですねぇ……」
 呆れ顔をした紳太の姿が飛び込んできた。
「……なんだよ? 俺が間抜けだって言いたいのか? ああ、笑えよ。周知の事実を知らなかった俺は、確かに間抜けだよ」
 情けなさを感じながら、俺はそんな事を言う。
 が、
「そんな事で呆れないですよ。僕が呆れたのは、あの、フレイヤさん? ――の態度の不自然さに、何故気付けないのか、って事です。フレイヤさん、すぐ出たでしょ? それに、忙しそうでもなんでもなかった。そそくさと話を切り上げたのは、『これ以上話が長引くのを警戒した』んですよ。それと、漆黒の意味は確かに周知の事なのかもしれませんが、じゃあなぜエナお姉さんが、そんな能力を持っている――ないしは、そんな状態なのか。そこが黒騎士さんの知りたい事だったワケでしょう?」
「……ああ、まぁ、そうだな……」
 確かに、俺は自分に呆れた。だが、同時に紳太の観察眼にも驚いていた。
「少なくともフレイヤさんは、黒髪の恵那お姉さんの正体を知っているでしょうね。それと、エナお姉さん自体が、かなり特殊な――フレイヤさんが、あまり触れたくない存在なのではないかと思います。ただ……」
 そこまで言って、紳太は疑念を顕にした。
「ただ、なんだ?」
「本当にそんな存在なら、なぜ黒騎士さんとペアにして、ここに派遣したのか、と……『触れて欲しくない事実』、というものを、むしろエサにして、何かをしたい……そんな気もするんですよね……」
 だとしたら――
 俺は、その一点だけは心当たりがあった。
 態度でも、言葉でも、あの女神が俺を手放したくないのは一目瞭然だ。
 俺の不満を逸らすために今回の任務を画策したのなら、俺がどうあがいても、成仏するという願いを諦めるような仕掛けを用意しているはずだ。
 ――それが……春日、恵那……? ――
「まぁ、これ以上フレイヤさんからは何も訊き出せそうにないですしね。恐らく、通信しようとしても出てこないでしょうから」
「だろうな」
「だったら、残る手は一つ……」
「春日恵那本人に訊け、か?」
「そういう事です」
 紳太は満足げに頷いた。コイツはコイツで、今の状況を楽しんでいるらしい。まったく大したガキだ。