漆黒のヴァルキュリア
第二章 恵那の面影 5
俺はふと我に返り、激しく呼吸を繰り返す。
徐々に徐々に、思い出してきたのだ。
だが――
エナ。結局、あいつが良く分からない。
春日恵那。そしてエナ。二人が同一人物なのか。エナの中に恵那がいるのか。あるいは、もっと別の何かなのか――
エナが恵那だとしたら、どうしてアイツがヴァルキュリアをやっているのか。
それは、エナに訊いて分かる事なのだろうか。
しらばっくれる可能性もある。
エナが恵那ならば、俺の名前を覚えていてもおかしくないハズだし、そもそも俺をエインヘルヤルに選んだのはアイツなのだ。
だったら――
そこまで考えて、俺は深呼吸をした。
答えは、容易に出てくれそうにない。
知らない事が、多過ぎる。
「取り敢えず、訊いてみないと進まないと思いますよ?」
俺の顔色から思ったことを察したのか、紳太がそう言った。単純明快で、至極当然の選択だ。
「そうだな。――フギン!」
俺の呼び声で、フギンが頭に舞い降りる。ひょっとすると、フギンやムニンも何か知っているかもしれない。そう思ったが、しかし、神が絡む事ならば、コイツらは容易に口を割らないだろう。そうも思った。
作品名:漆黒のヴァルキュリア 作家名:山下しんか