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ボクのプレシャスブルー

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3.昼食



 運動会は午前の部を終え、私たちは昼食を取る場所を探した。
「ああ松野さん、良かったら一緒にどうですか」
声をかけてくれたのは、先ほどのロン毛の同走者だ。引っ張っていた少年と二人でコンビニらしきお弁当を持って陣取っている。
「治人、一緒に食べよ」
治人がその少年の言葉に、私の顔を覗き込む。
「ご一緒させていただけますか」
その言葉に、息子と少年との顔がぱっと華いだ。
「どうぞ。私は悠馬の父親の伏見と言います」
若そうだが、やはり父親だったか。私自身が二度目で、息子の父親としては歳を取り過ぎているのも事実だが。兄とまでは言わずとも、小学生の子を持つほどの年齢にはとても見えない。
 早速純輝が隣にシートを敷き、持ってきた弁当を取り出す。
「どうぞ、たくさんありますから、ぜひつまんでください」
「うわっ、すげぇ」
「えへへ、お父さんが作ったんだよ。」
取り出した弁当に色めいた悠馬に、治人は自慢げにそう言った。
「へぇ、松野さんが作られたんですか」
それを見て伏見が目を瞠った。
「私はこんな身体ですからね、嫁を働かせて主夫をやってるんです」
そう言った私に、
「芳治さんだってちゃんと仕事してるじゃない、『髪結いの亭主』みたいな他人聞きの悪いこと言わないでよ。それに私、今は仕事してないわ」
と、さくらは口をとがらせた。
「お母さんはね、今大学生なんだよ。赤ちゃんが生まれるお仕事をするために、学校に行ってるんだ」
そんなさくらに治人は胸を張って補足する。
「赤ちゃんが生まれるお仕事?! ボクんちもね、ちょっと前にね、妹が生まれたんだよ! 千春って言うんだ。めちゃくちゃかわいいんだよ」
悠馬も負けじと生まれたばかりの妹の自慢を始める。
「それはおめでとうございます」
「あ、いえ、ありがとうございます。」
私のお祝いの言葉に、伏見は頭を掻きながら答えて、
「明後日帰ってくるんだよね、パパ」
と言う悠馬の言葉に優しく頷いた。

 治人と悠馬はさっさと食べ終わると、
「遊んで来て良い?」
と二人で走って行った。その時、
「治人のパパって、カッコいいな」
「そうだろ? だからボクのパパはプレシャスブルーだって言ったじゃん」
という会話が風に乗って私の耳に届いた。

「それでさ、そのプレシャスブルーってのは一体何なんだ?」
 二人が離れたのを見計らって、私は純輝にそう尋ねた。すると、純輝はもちろんのこと、楓や伏見までもが吹き出したのだ。どうやらその存在を知らないのは私とさくらだけらしい。
「よしりん、まさか何にも知らないで、『俺はプレシャスブルーだ』とか言ってた訳?」
「治人が言うのに頷いてただけだ、俺は」
腹を抱えて笑う純輝を睨みながら私はそう言った。
「時空戦隊プレシャスファイブ。確か今やっているSINOBI戦隊忍レンジャーの二つ前のやつですよね」
戦隊? ああ、あの色とりどりの全身タイツで飛び跳ねる子供番組か。
「伏見さんはよくご存じなんですね」
「ええ、悠馬と一緒に毎週欠かさず……ってか、俺の方が率先して見てますよ。あれってね、大人が見てもって言うか、大人が見てこそ面白いんです。子供に十年、二十年前のパロなんて解かりませんからね。大人が見るのを想定してそういうのを組み込んであるんですよ。言わばスタッフのアソビです。俺、そういうの見つけるとワクワクするんですよ」
「わぉ、悠馬君のお父さん、同志! あれはやっぱ大人が見るもんですよね」
とそれに純輝が食いつく。
「大人ってなぁ、君はまだ中学生だろうが」
「だけど、小学生のガキんちょじゃもうねぇから」
私の言葉に、純輝は剥れる。だが、私から言わせれば、こいつはまだまだひよっこのガキだ。そのまま純輝は喜々として伏見と戦隊モノの魅力について大いに話に花を咲かせ始めている。そんな話を聞いていると、私もそのプレシャスブルーと言う奴を見てみたくなった。伏見が、
「そう言えば松野さんってどことなくプレシャスブルーに似てますよ。顔もそうだし、泰然自若とした雰囲気とか……」
などと言うものだから余計に。するとそれを察したのか、
「あ、家にプレシャスファイブのDVDあるよ。純兄が録画してくれた」
と楓が言う。
「どうせ、自分が見たいから録画したんだろ、純輝。自分の家で見ろ、家で」
「あの面子がオレに見たいモノ見せてくれると思う?」
私の言葉に純輝は首をすくめてそう答えた。
「ま、それはそうだがな」
純輝は五人兄弟の二番目。確かに、あの家で好きなDVDを見るのは至難の技だろうな。
「あれっ、純輝君って治人君のお兄ちゃんじゃないんですか?」
 その時、会話を聞いていた伏見が不思議そうに尋ねた。
「あ、オレはここんちの子供じゃないですよ。オレはさくらちゃんの前の旦那です」
それに対して純輝は笑いながらそう答える。
「お前まだ、それを言うか?!」
「言うくらいタダじゃんかよ」
私たちにはいつもの会話だが、尋ねた当の伏見にはますます謎が深まってしまったのだろう。口を開けたままの顔に、戸惑いと聞いてしまった後悔が見える。
「あのね、この子は私が主人と結婚する前に付き合ってた人の妹の息子なんです」
それで慌ててさくらが事情を説明するが、さくらも自分は解かっているために幾分説明不足だ。
「オレはそのおっ死んだ彼女の恋人の生まれ変わり……なんて言ったら、伏見さん信じます?」
「……」
純輝は伏見の顔を覗き込んで尋ねたが、伏見はどう返答して良いのか解からずにこたえあぐねている。
「冗談ですよ。オレ、その伯父さんにすごく似てるらしいんです。だから時々ネタにするだけですよ」
純輝はその様子を見て、笑顔でそう付け加えた。

本当はネタだなどとは思ってないクセに……私は純輝の横顔を見ながらそう思った。