MIROKU
逃亡
「なんで、僕なんだ」
抱きしめられたままのココロは、ミロクの耳元で訊いた。
「『心を強く保てる今はその心配は無い』と言ったでしょう? それは、ココロに出会ったからですの」
そっと、ミロクはココロから離れて、ベンチの背にもたれる。
「初めて撃たれた時から、あなたに惚れていたなんて言ったら、どうします?」
少し頬を赤く染めながらの、ミロクの告白だった。
「……なんでそんなことで、惚れるんだよ」
「かっこよかったからですわ」
恥ずかしそうに言うミロクの顔にココロは驚いた。こいつ、こんな顔ができるのか、と。
赦されはしないけど、叶いはしないけど、否定はできないけど、だけど、一緒にいることができれば、何かが変わるかもしれない。
そして、ココロとミロクは逃亡を決意した。
最初の障害は、ココロがつけたミロクの首輪。これを外さなければミロクをDURLが追ってくる。
その鍵を持っているのはドクターだ。
鍵を奪うために、ココロは検診に行く振りをしてドクターの研究室に向かう算段を立て、実行に移した。
監視カメラの裏を付き、赤外線センサーを回避し、中枢制御室を騙しながら進む。今までの技と知識を総動員した逃亡劇は何もかもがうまく進んでいた。
「オクトパス、やめろ! それを持ち出すことは世界を壊すことに「ドクター、君は用済みだ。消え去れ」
ドア越しの、ドクターの悲鳴を聞くまでは。
「ドクター!」
ココロが自動ドアをこじ開ける。
暗いため、中の様子を知ることができない。しかし、コツリ、コツリと何かが近づく音が聞こえた。
廊下側からもれる光が、その人物の靴を、灰色のズボンを、スーツを照らし、そして、『青年』の顔を照らした。
「誰だ、あんた」
ココロはその人物を睨む。その黒い髪の青年は、両手を仰ぐように広げ、言った。
「初めまして、ココロ・サイトウ。私の名は、エイト・F・カルゴス。皆にはよくオクトパスと呼ばれるがね」
完全不死化により、若返ったオクトパスがそこにいた。