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せき あゆみ
せき あゆみ
novelistID. 105
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わが家の怪

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─参─ 《背中》



 それから数ヶ月たった早春のこと。
 わが家は建て直すことになり、その間、200メートルほど離れた場所に家を借りて住むようになった。
 借家は通りから奥まったところに建っていて、右手から後ろは山、左手は畑だった。

 風呂がなかったので、畑よりの空きスペースに急ごしらえの風呂場を作って廊下から入るようになっていた。
 廊下の方は木の扉、外との出入り口は壊した家の風呂場で使っていたガラス戸だった。

 それは卒業式の前の晩のこと。

 風呂に入ったわたしは、髪の毛を洗い始めたとき、なぜか背中に視線を感じた。
 なんとも言いようのないいやな感覚に、何度も振り向いてみたが、誰もいるはずがない。

 おかしいと思いつつ、前のガラス戸に目をやると、外から漏れてくる街頭の灯りを遮って、右から左へ人影が移動していった。

 おそらく、晩酌している父が尿意をもよおして、外で用を足しているのだろう。
(父は酔うと外で小用をたすのが癖だった)

 そう思ったが、音がしない。
 しかも左に移動した影はいつまでたっても戻らない。

 左側は畑があるが、その手前には1メートルほどの幅の溝があり、溝に沿って低い塀があるので行き止まりなのだ。
 それでも無理に畑の方にいくともなれば、勢いをつけて飛びこえるしかない。それなら当然足音がきこえるはず。

 しかし、なんの音も聞こえなかった。 

 いや。それ以前に、その借家の前は人が通る道ではない。誰が来るというのだ?

 首をひねるわたしに次の瞬間、背中にべったりと冷たいものが張り付いた。

 たまらずわたしは湯船に飛び込んだ。
 
 寒い。

 暖かい風呂に入っているというのに、身体の芯が冷える。
 歯の根がかみ合わないほど、がちがちとふるえる。

 わたしは風呂場から飛び出した。

 そうして、いいようのない恐怖におそわれたわたしは、髪の毛をきちんと乾かすのももどかしく、布団に潜り込んだ。
 それでも寒い。

 その晩はいっこうに眠れず、なぜか、死とはなにか? などという思いを頭の中で駆けめぐらせていた。

 次の朝、あやうく寝坊しそうになって飛び起きたわたしは、朝食もそこそこに家を飛び出した。
 3年生の卒業式だが、学校によっては在校生は代表者だけが出るが、わたしたちの学校では在校生が全員式に出ることになっている。

「あれ?」

 駅に着いたわたしは辺りを見回した。

 なぜか、いつもの時間に同じ学校の生徒がいないのだ。一緒に行く連れの友だちも来ない。
(これは後で知ったことだが、実は1つ遅い電車で登校すればよいことになっていたのを、うちのクラスの担任は、遅刻者が出ないようにそれを知らせなかった)
 
 仕方なく、一人で電車に乗り込むと、たまたま中学校が同じだった、他の高校へいっている同級生と乗り合わせた。

「ねえ、お宅の学校で自殺した男子がいるでしょ。今日の新聞に載っていたわよ」

「え?」

 その時、ふと、1年生の時クラスメイトだった男子生徒の顔が浮かんだ。
 電車の時間に合わせるためにぎりぎりで行ったわたしには、当然新聞を読んでいる時間などなかった。

 学校に着くと、その話でもちきりだった。
 しかも、わたしが思ったとおりの男子生徒だった。

 亡くなったのは前日の夜。首つり自殺だという。

 当時、彼のいたクラスは、彼が原因でもめていた。
 詳細はわからないが、連日放課後遅くまでクラス全員で話し合っていたのだった。

 断じて言うが、彼をクラス全員でいじめていたわけではない。
 むしろ彼がクラスを引っかき回したのだが、だからといって彼を村八分にしたわけでもない。

 しかし、担任の教師はクラス全員が彼をいじめたと言って、一人一人をなじっていたらしい。
 (以前からノイローゼ気味だったこの教師は、その後クラス担任からはずされた)



 それにしても、なぜ、わたしがあんないやな思いをしたのか。
 彼の死と関係があるのか、ただの偶然なのかはわからない。


 ただ、1年生の同じクラスだったとき、わたしは彼から非常に不快ないたずらをうけた。

 死者を悪く言うようでいやだけれど、実際不愉快な目に遭ったことは事実だ。
 それは彼がわたしの後ろの席になった時にされたことだった。

 

 とすると、あの晩、背中に張り付いたモノの正体は、やはり……。





作品名:わが家の怪 作家名:せき あゆみ