わが家の怪
─番外篇・2─ ≪イケメン君≫
「九」のイケメン君のその後のこと。
ワタクシの仕事の上司は2年に一度替わる。
その部長の名前だけは以前から知っていた。なによりワタクシの旧姓と同じで、息子の同級生とは同姓同名だったので、覚えやすかったからだ。
しかし、顔と名前が一致しないので、総会で部長たちが並んでもどの人なのかはわからなかった。
今から4年前、人事異動でその部長がうちの営業部に来ることになった。
初めてみたとき、ワタクシは驚いたのなんの。
はい。くだんの幽霊君に似ていたのだから。
もちろん年齢はイケメン幽霊君のほうが10歳若いし、部長よりもイケメンだ。
けれど、ワタクシはなぜか、部長にいろいろしてあげたくなった。
別段よこしまなことを考えたのではなく、せっかく海のそばに転勤してきたのだからと、海の物をいろいろ差し上げたというわけ。
部長がサザエが好きだというので、いつも母や姪っ子がとってくると分けてもらっているのだが、それをもって行ってあげたり、たこも好きだというので、たこの唐揚げを作ってあげたり……。
不思議なことにその部長のいた2年間、サザエがたくさんとれたのだ。
夕方外回りから帰った時など、みんながおやつを持ち寄って食べたりするので、それがサザエに変わっただけで、ワタクシだけが特別な事をしていたわけではないから、同僚や先輩方から恨まれることはなかったけれど、ときどき「部長にほの字?」なんてからかう人もいた。
もちろん、こっそりあげたこともありますけどね。サザエも取れたての魚も。
なぜ部長にそこまでするのか、その理由をひとりの大先輩にだけ話したことがある。
ワタクシはイケメン君を流産した子どもだと思っている。だから、その子にしてやれなかったことを部長にしているのだと。
こんなこと当の部長にはいえない。ワタクシの自己満足にすぎないのだ。第一、幽霊の替わりなんて知ったらいやだろうし。
2年後、部長は東京に転勤になった。とともにイケメン君はワタクシの前から姿を消した。
成仏してくれたのかな?