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せき あゆみ
せき あゆみ
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わが家の怪

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─拾五─ 《戦い》




 霊にはさまざまな性質のモノがあると思う。やっかいなのは、人に害をなす霊だ。これはたぶん、どんな方も同感してくれると思うけれども。

 これから書くことは、あくまでもわたしの体験から言えることで、ちがう経験の方にはそれなりの対処の仕方があるかと思うので、全部に当てはまるといっているのではないことをまえおきしておく。


 一番困ったことが起きたのは、今から10年近く前のことだった。

 事の発端は、当時中学3年だった次男が、友人宅で『呪いのビデオ』をおもしろ半分に見たことだ。
 帰ってきた彼は「怖かった」と盛んにいっていたのだが……。

 その時はその話だけで終わった。


 それからしばらくして、次男は学校の部活でちょっとしたいざこざをおこした。
 下級生をいじめている同級生がいたので、怒った次男はその子を殴ってしまったのだ。

 しかし、それを新入生の前でやってしまったので、ばつが悪くなり、部活に顔を出せなくなってしまった。

 でも、そんなことはほとぼりが冷めれば、自然に復活できること。
 部活の顧問の先生とわたしは話し合って、しばらく様子を見るということで合意した。

 ところが担任の教師は、上司である学年主任から「部活に出るよう指導しろ」といわれたらしく、なぜ部活にでないのか次男を責めた。

 まったく、話をややこしくさせる先生だ。

 毎日、授業時間まで別の教室に監禁されて、「部活に出ろ」と責め立てられた次男は、とうとう登校拒否になってしまった。

 家に閉じこもる次男。
 話してもわからずやの担任教師や学年主任に辟易するわたし。

 閉鎖的な空間にいると、やはり精神的に追い詰められる。
 次男は幸い楽天的な性格だったので、学校には行かないまでも、外に出て気分転換することはやっていた。
 だから、わたしもそれほど深刻にならずに済んだと思う。

 ちょうどその頃。
 わたしは2階の廊下の突き当たりにある物置の掃除をしたいと思いながら、なぜかできないでいた。

 階下にいるときは、掃除をしようと思うのだが、いざ2階に上がると、部屋の掃除はするのに、その物置だけは急に気持ちが萎えてしまうのだった。

 あげくに、物置の出入り口を籐のついたてでかくしてしまうという、逆のことをしてしまった。

 次男が登校拒否になってひと月ほど経った頃、わが家は外壁を塗り直すことになった。

 夏なので、まわりを足場やビニールに囲まれた家の中は、まるで蒸し風呂のようになった。
 古い家なので、クーラーもない。扇風機だけが涼を得る手段だった。

 そうしてしばらくすると、わたしは家の中の気がおかしいと感じるようになった。

 そう、空気の流れがよどんだおかげで、家の中に悪霊が入り込んでいたことに気づき始めたのだった。


 次男には少し霊感があるが、長男にはまったくと言っていいほどない。
 ところが、その長男でさえ、ある日こういったのだ。

「ねえ、職人さん。まだいる?」

「え? 今日はもう帰ったよ」

と、わたし。

「二階に上がると人の気配がするんだ。自分の部屋に入っちゃうとそれはなくなるんだけど」

 長男のそのことばでわたしは確信した。

 やっぱり、いるのだと。
 今までわたしの目もくらましていたその霊が。



 その次の日、まったく偶然に姪がやってきた。

 不思議なことに、この姪も、ほとんど毎日のようにわが家に遊びに来ていたのに、このひと月の間まったく来なくなっていたのだ。

「あら、ちょうどいいところに来てくれた。ちょっと二階に上がって」

 いぶかる姪をむりやり二階へと押し上げた。

「やだ。なに。気持ち悪い!」

 二階に上がりきらないうちに姪は叫んだ。それから物置のドアを指さして言った。

「あの陰に女がいる。すごい目で睨まれた」

 やっぱり!

「ありがとう。これでやっつけられる」

 喜ぶわたしに姪は

「まったく、わたしは幽霊探知機じゃないったら」

 と、ぶつぶつ文句を言ったが、なにか(ものは忘れたが)をおごって黙らせた。


 正体がわかれば、怖がることはない。追い出すだけだ。

 悪霊というモノは、人が気がつかないでいるうちはおもしろがって悪さをするが、正体がばれると急に力が弱くなると教えてくれた人がいたが──

 その通りだと思う。

 わたしの友人に熱心なクリスチャンがいる。
 その人のことばを思い出し、もらってあった聖書を引っ張り出して、わたしは悪霊に立ち向かった。

「ぼくなら霊感がないから、なんにも起こらないでしょ」

と言って、まず、長男がドアを外してくれた。

 真っ暗だった物置は、たちまち光がはいり、風が吹き込んだ。

 かくれていた場所を暴かれた霊は、わたしに体当たりしてきた。

 お腹にずしんと見えない力が当たったのを感じた。


 けれど、わたしがその霊の存在を拒んだので、彼女はとりつくことができずにいた。
 
 聖書を読みながら、わたしは物置の中にはたきをかけた。
 つもったほこりをはたきだすと、今度は中にあるもの(折りたたみの座卓やら使わなくなったおもちゃなど)を全部だし、いるものと処分するものとをより分け、いるものは一つ一つをぞうきんで拭いてきれいにした。
 
 こうして半日ほどかけて物置の中を整理し、古びたドアは捨て、レースの間仕切りのカーテンを掛けてきれいにディスプレイした。

 さて、物置はきれいにしたが、霊は出て行ってはくれない。
 よりによってわたしの左半身にひっついていた。

 まるで冷蔵庫の冷気をしょっているような感じで、わたしの左上半身は鳥肌が立っていた。

 物置の整理で夕方になってしまったので、ご飯の支度をしなくてはいけない。
 とりあえず、買い物に出た。

 スーパーで会った知り合いに言われた。

「どうしたの? その顔。鳥肌たってるけど」

「まあ、ちょっと体調不良で……」

と言うしかない。霊にとりつかれているなんて言ったら、頭がおかしいと思われるだろうから。


 夕食を終えて、わたしと次男は向かい合って座った。
 わたしは聖書を読み始めた。

 クリスチャンの友人からのアドバイスでは

「聖書は神の言葉だから、どこでもいいのよ」

とのこと。

 ぱっと開いたのは詩編のまんなかあたりだった。
 とにかく、わたしからも次男からもこの霊を離さなくてはならない。

 ひたすら読んだ。

 内容は誰がどうしたとか、こうしたとかいう話で、霊に関係のあることばはいっこうに出てこない。

「神の言葉は生きているから、力があるのよ」

と、友人のことばを信じて読み続けた。

 1時間以上読み続けて、口が痛くなってきた時、




 ──わたしの魂を救い出してください──




 その一節が目に入った。

 そして、それを読んだとたん、わたしの左目からつうっと涙が伝った。
 と同時に、憑いていた霊がすうっと離れていったのだった。


 姪の話では、その霊は失恋して自殺した女の霊で、たまたま「呪いのビデオ」を見て、霊に敏感になっていた次男をみつけて、救ってほしい一心で憑いてきたらしいと言うことだった。
作品名:わが家の怪 作家名:せき あゆみ