隠れて恋人関係
「……あ、ちょっと、口にケチャップついてるわよ」
「へっ?」
俺は即座に手で拭こうとしたが、彼女に手首を掴まれた。
「手で拭こうなんてマナーがなってないわね。ほら、これ使いなさい」
そう言って彼女はハンカチを差し出した。
「あ、ありがとうな」
俺はハンカチで口を拭きながら思う。俺のだらしなさに、彼女はすぐ気づいてくれる。でも俺は、彼女の気持ちに気づいて、答えてあげてるのだろうか……》俺はこんな隠れるような恋人関係をやめたいのだ。きっと彼女もそうだと思う。
『ちゃんと綺麗に口拭いた?』
「ああ、もう何もついてないと思うけど……」
――っっ!!?
俺は何が起きたか最初わからなかった。ハンカチに視線がいっていたから、彼女の顔が異常に近い距離にあることに気づかなかった。俺が見れた彼女の顔は、目を閉じたまま数センチも近づいていたのだ。
「んっ!?」
唇が重なる。驚愕に見開いて体も硬直してしまう。生徒全員の視線が俺達に釘付けになっている。たっぷり数秒たってから唇をはなす。はにかんだ笑顔を浮かべた彼女は、
『えへへ、やっぱり隠すのはなし。っていうか無理よね』そう言うと、机の上にある俺の手を握りしめてきた。
彼女の突然キスをクラスメイトに見せつけたことにより、俺達が恋人同士だと広く知られることになった。彼女の先を考えもしない積極的な行動により、恥ずかしい目線をしばらく受ける度、やっぱり痴話ケンカしてしまう。それでも俺達はずっと付き合っていく。二人で綺麗な青空を見たら、また仲良くなってたりするからだ。