「架空請求」
マンションに帰ったのは夜11時のことである。エレベーターで五階を押し、自分の部屋の前で降りる。祐介の部屋はエレベーターのちょうど前にあった。そこに昨日の見た宅配業者の男がたっている。非常に長い時間待っていたのだろう。しんどそうに軸足をかえながら、手すりにもたれかかっていた。
「あれ、どうしましたか?」
「あれから会社に帰って上のものに非常に怒られました」
「それは、何も入っていなかったからですか?」
「いえ、違います、確かに入っていました。だから怒られたのです。そして、入っていたものというのは非常に不思議なもので」
そんなはずはない、…祐介はそれを聞いて愕然とした。
入っていたものは、ありえるはずのないものだった。
だから、見えなかったのだ。
ただ、そこには確かにあった。
それは、使う人の知識の泉の使用制限をなくす道具だったのだ。宅配の男の話からすると、人の頭には通常、知識の泉というものがある。そして、知識の泉が乾かないように人には一日に利用できる知識の水の使用量があらかじめ決まっている。そのリミッターを解除するのがその道具だ。通常、リミッターを解除すると言っても、今後の知識をなくすわけにはいかないので、本当に少ししか封筒を開けない。しかし、祐介は大きく封筒を開いた。その結果どうなるのだ。
「すみません、他に説明書もあったのですが、説明書だけを注文者に送り、あなたに間違って商品を届けてしまったのです。その説明書はこれです」
祐介は説明書に目を落とした。説明書を読んだ祐介は理解した。今日一日、プレゼン資料作成とたまった資料のために祐介は知識の泉のダムを開け放ち、これから使う知識の水の全てを流した。もう彼の知識の泉に水はない。祐介は、しゃがみこみ今後どうして生きていけばいいのか嘆いた。
「それと、大変申し上げにくいのですが、商品は消耗品でして…、使われた方に代金をいただいて来いと会社では言っているのです」
「そして、その値段は…」
祐介はそれを聞くと、意識が遠のいていった。ただ薄れゆく意識の中で確かに聞いた。
「一億円です」、と。