ガーデン
急がねばならない。彼女はここで納得のゆくまでスクラップ帳を読み、また山を下りて人に会わなければならない用事があった。自室に招いている以上、主たる自分が不在というわけにはいかない。かといって、これを読まずに会う訳にはいかなかった。さもなければ、彼女はなにも答えられなくなってしまうだろう。今、何時だったか……。僅かばかりの焦りを覚えつつ、青林檎色のカーテンを僅かに開けて外を見る。夜が明けつつあるのか陽が沈みつつあるのか、判然としなかった。彼女は身のうちに沸き立つ熱に思わず自らの指で自らの身体を握りしめ、痙攣のように震えた肺が排出するひとかたまりの息を古びた絵の方へと投げつけた。
ページをめくるたびに、部屋を舞う緑色の光たちは何度も彼女の身体を貫くだろう。彼女はむさぼるように読み、そしてまた山を下って立ち去るだろう。ようやく彼女は、水筒の水に口をつける。透き通るワイングラスに注がれるのは、それよりも透き通った水だ。ぐっと飲み干すと、グラスの縁を緑色の光がなぞった。