嵐の環・台風の虹彩(酒井貴裕)
ダイアモンドがその浮遊の高度を日ごとに少しずつ上げて、その角から放つ光線でハゲタカを撃ち殺し、その死骸が副村長宅に直撃し家屋を全壊させた頃になって村人は毎日農作業のあとに会議を催すようになった。議論はいつも横滑りで、何の成果も上がらなかった。ダイアモンドを見るのもおどろおどろしいと窓を閉め切ったために空気は薄くなり、村人たちは皆宙に浮き上がってしまった。天井のへりにしがみついたまま坂上とムシャンガはこれから僕らはどうなっちゃうんだろうと見つめ合っていた。村人たちはなるようになるさとへらへらしながら天井に頭をぶつけては、先の見えなさへの不安を酒で濁した――同じように浮いたタンスを器用に避けながら。
作品名:嵐の環・台風の虹彩(酒井貴裕) 作家名:早稲田文芸会