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イカズチの男

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 その子が誰であるかは簡単に予想出来た。堂島の所に連れて行くと、既に何人かの見知らぬ教師が戻ってきており、危うく誘拐犯にされそうになったが、堂島が同僚に適切な説明をしてくれた。
「平成X年度卒業生が母校を懐かしんで訪ねてきた。丁度困っていた元担任を思って、生徒探しを手伝ってくれていた」
 俺達ってなんて担任孝行な卒業生。

 講堂の鍵をそっと返して、俺達は礼儀正しく挨拶をしその場を去った。
 行方不明だった女子生徒の親が迎えに来るらしく、それ以上いるのは居心地が悪かった。
 校庭をのろのろと歩いた。
 時刻は午後十一時を回っていた。明日、何限からだっけ。
 音川は足を引きずって砂地にラインを描きながら俺の後ろをついてきた。もう帽子もサングラスも付けていなかった。
「あの子、俺と同じだったんだ。だから話を聞いた。仲間がいるのといないのは全然違うし、俺もなんだか今日は、いっぱい救われた」
 音川がそんなことを言った。さすがに空気は冷え込んで、一度コートを脱いだ俺には隙間風が痛いくらいだ。「寒」と繰り返した。
 こいつが最近よく言われる『病気』の『患者』であることは、『美奈子』と『音川』が重なった時に気づいた。
「雷はさ」
 ふと一つ思い当たって、後ろを振り向かずに歩き続けながら言った。
「カッコイイじゃん?」
「前怖かったけど、今は好きだねえ」
「でもその恰好良さってさ、あれがどうやって光るのか詳しく知らねえからこそ、だと思わないか?」
「まあねえ。やっぱりサンタクロースは自分の親父じゃなくて、青い瞳に真っ白い髭の爺さんがいいなあ」
「お前ってそんな感じ」
 音川が後ろで立ち止まった。
 俺もその場に止まって、一呼吸ついてから振り向いた。
 音川は笑っていた。
 こいつの顔、俺知ってるな。でも、中身は確かにまだ修行中の、男だった。
「エツシはそう言う奴だから、結構好きだった。勝手に『兄弟』として。よくそう言うじゃん男同士は」
 あの食えない笑い方をした。俺もにやりとした。
 音川は、『音川美奈子』でなくただの『音川』と名乗って、俺は『豊田悦司』でなくただの『エツシ』と名乗った。相手が誰であれ、ただの二人で遊びたかっただけだ。お互いの詳しいことを知りたい訳じゃない。一生懸命楽しみたかったのだ。そしてそれは成功した。稲光のような一瞬の今夜だけで。
「ああっ!」
 音川が講堂の方に視線を滑らせて、未確認飛行物体でも発見したような声を上げた。思わず俺も音川に倣う。
「あ」
 力が抜けた。そりゃないよ。
「堂島ぁ。講堂の電気消しちまったら意味ねえんだよ!」
 定年間近の堂島は、テトリスを知らなくて、俺達も何がしたかったのかを全然説明していなかった。あれだけ走り回って重い緞帳を上げ下げした甲斐もなく、付け放しにしてきた講堂の電灯は、呆気なく消されていた。当然、巨大テトリスが駅から見えるはずもない。
「まあ、そうだよな。消されるよな電気の無駄遣いだもんな」
「腹が立つ! 俺の芸術作品! 今度は必ず成功させるぞ!」
「え、またやんの!?」
「面白かったろ?」
 音川がちょっと傷ついたような顔をした。その表情。こいつ自分の最大の武器が何か解ってやがる。
 さば読みブーツの踵を鳴らして、音川俺の前を走り出した。
「次はさあ、もう一人真っ黒い奴を見つけて、仲間を増やしたいよな。三人並んでオセロオセロ!」
 そうしたら俺はリバーシブル仕様のコートを手に入れなくちゃならんのかい。
 俺は灰色の奴がいい。激しいコントラストがグラデーションになって丁度良くなりそうだ。音川が突然ひらめいたとばかりに叫んだ。

「グレイでもいいぞ!」

 お前とは本当、胎の中から一緒にいた気がするよ。




END.
and IKAZUCHI BOYZ never stop !
作品名:イカズチの男 作家名:めっこ