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優しい花

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1.



僕は流行りの平凡顔主人公。俗世間では大抵、美形の長身と結ばれる運命だ。それが、不良だろうと生徒会長だろうと変態だろうともね。そうだ、僕はこの間まで今まで述べた条件を全て満たす男に追われていた。

彼の名は槍杖 秀端(やりえ しゅうは)、我が学園の生徒会長であり、167センチの僕を15センチ上から見下ろす長身美形。(因みに、彼は三年であり、僕はまだ一年である。つまりこの身長差など成長期にある僕にはすぐに覆せるはずなのである)彼は不良であり、その上変態である。もちろん親衛隊なる組織も存在している。

「オイ、敬」

そういえば、僕の名前は行田 敬(ゆきだ けい)と言う。自己紹介を怠るだなんて、粗相をしてしまった。敬だなんて大層な名前だけれど、誰からも敬われた覚えはない。そんな名誉も何もない一般庶民代表だ。槍杖様はご想像の通り、この全寮制金持ち学園の王者であり、財界の王子である。しかし、金持ちも度を過ぎればドン引きである。何がとは敢えて言わない。何故なら僕のトラウマというものだからだ。

「何でしょうか…」

ふてぶてしい王様の呼び掛けに、僕は溜め息混じりの小さな声で答える。この問答はかつて幾度となく繰り返してきた。パターンはいい加減読めているのだが、こうも丁寧に返すのは衆人の目という物があるからだ。絶対君主制と言えば分かるだろうか。

「はっ、ナニか、分かってんだろ?」

残念、分かりたくもありません。わざわざカタカナで言うから下品も良いところ。

「嫌です」

きっぱりと断る。何を言ってもどうせ結果は同じ。ならば日々の憂さ晴らしに、ガツンと言ってやろうじゃないか。だがしかし、所詮僕の力量では拒否の一言のみだが。

「相変わらずツレねぇな」

踵を返し、足早に帰ろうとした寸前にその癪なほど長い腕で腰を絡め取られた。
この非常識な変態はここが学食であることを分かっているだろうか。男の園に響く悲鳴など阿鼻叫喚で十分だ。あぁ、ウルサい。

「やめてください!」

手足をバタつかせて抵抗。しかしビクともしない。王道に反することなく、彼には適度に筋肉がついており、僕はひ弱である。
さて、王道ではここでこの騒動を止めにはいるのは、
1.クラスメイト(ルームメイトや幼なじみといった繋がりがある)の、会長に負けず劣らずの長身美形
2.正義感の強い美少女顔ちびっ子クラスメイト(部屋は隣)
3.和風美人もしくは英国王子風副会長
といったところか。(総受けならばキリがないだろうが、まぁ今回はここまで)
僕には確かに、1のルームメイトでクラスメイトの長身美形の友達はいる。だが彼は基本的に傍観者だ。何故かと前問うたことがある。

「や、会長の周り怖ぇーし!俺には無理だよぉ…敬のことは好きだけどさぁ」

ヤツはヘタレだった。こうしている今も衆人環視の一員となって、間抜けに口を開けている。告白もあんな情けないセリフの中でしているのだから、地球の果て程のヘタレだ。しかも天然だから気付いちゃいねぇ(僕も潔くスルーを決め込んだ)。

では、2の彼はどうか。彼は今、前の授業からぶっ続けのサボリで、恐らく屋上で昼寝の真っ最中だ。武道に長けている彼は、側にいてくれれば大変心強い味方なのだが、残念なことにいつも重要な時にいない。
どちらも友達甲斐の無いヤツだ…。

最後の3。これまたこの学園に存在する。ちなみに和風美人の方だ。彼は腹黒の上猫被りだ。そして今この場にはいない。しかし、周りを見渡すと何故か妙な位置に数台設置された監視カメラがせわしなく動いている。僕はよくここで絡まれるのだ。それを彼は知っていて、今頃モニターの前で笑っているに違いない。彼曰く、際限なく同じやり取りを繰り返す僕等が大層面白いらしい。(そういえば、屋上のヤツのルームメイトは副会長に小間使いにされているため、今この状況を映像で見て憐れんでくれているかも知れない。彼は純粋にいいヤツだ。だから副会長に漬け込まれんだよ)

では、誰が助けに入るのか。


「いいじゃねぇか。俺の私室に連れてってやるぞ」
「ギャアアアア!!」

今、この変態に尻を撫でられた。その上、揉まれた。それに、その申し出は全く嬉しくないどころかむしろ迷惑だ。若干気が遠くなりそうだが、ここで彼が来てくれるに違いない。


「秀端様、おやめなさい!」

アルトボイスがズバッと言い放つ。槍杖様の腕が一瞬緩んだので、その隙をついて逃げ出す。そして、その人の背後に隠れるように回った。

「…またか。静夏」
「いい加減になさい、敬君が怯えているでしょう。それに周囲の反応も考えなさい」

さっきからずっと周りの視線攻撃が痛くて怯んでいた僕の頭を、優しく撫でてくれる。その手があるだけで大分救われるよ。このまるで母のような物言いの彼は、

「静夏、お前俺の親衛隊の隊長じゃねぇのかよ?俺がソイツとヤリてぇっつってんだからヤラセろよ」

そう、この槍杖様の親衛隊の隊長である、風野 静夏(かざの しずか)先輩である。しかし会長、認識が甘いな。王道を行くならば、親衛隊は俺のような平凡をいたぶるんだよ。
静夏先輩は僕より2センチほど背が低く、ふわふわとしたハニーブラウンの髪が特徴的な、美少女と見まごうばかりの美少年だ。

「敬〜、大丈夫かぁ?」

会長が俺から離れ、静夏先輩が楯となっているため、ヘタレが僕に寄ってきた。今更ヘタレはいらん!僕には静夏先輩がいればいい!徹底無視を決め込んだ。

「確かに僕は貴方の親衛隊隊長ですが、敬君の味方です。敬君が嫌がることを強要するなら許しませんよ」

あぁ!静夏先輩かわいいのにかっこいい!僕、静夏先輩大好きだよっ!



本来ならば、親衛隊隊長の最たる敵である平凡顔主人公の僕だけれど、何故彼に守られるような図式が出来上がっているのか。それは僕と彼の出会いに遡る。


作品名:優しい花 作家名:まちだ