アダムとトヨタ
積み木遊び(4)
今日でトヨタは十七歳になる。ケーキの上に乗った『トヨタ、誕生日おめでとう!』のプレートに、にんまりと笑いが零れた。そんな僕を見て、トヨタが「何にやにやしてんの。気持ち悪いよ」と手厳しい言葉を投げ掛ける。
「ダッテ、トヨタ、たんじょー、ウレシイ、ベリーベリーうれシイ」
「毎年のことじゃん」
トヨタが溜息をついて、読んでいた本を閉じる。
「五十年タッテ、モ、ウレシイ」
そう言いながら、切り分けたケーキの上にひょいとプレートを乗せると、「馬鹿みたい」と言いながらもトヨタの頬が薄らと赤くなるのが見えた。嗚呼、可愛いなあ。改めてプレートに書かれた名前を見詰める。トヨタ、豊かな人。
「トヨタ、名前、スゴクステキ。カナエ、イイ名前、ツケタ」
満足げに僕が呟くと、トヨタが目を見張って僕を見返した。そのまるで信じられないものでも見るかのような驚愕の眼差しに、僕は一瞬ドキッとした。何かまずいことでも言ったんだろうかと、おどおどとトヨタを見詰める。
トヨタは暫く何か言いたげにパクパクと口を動かしたが、結局何も言わなかった。少し困ったように笑って、僕の肩に額を擦り寄せた。
「父さんは…ほんと仕方ない」
「トヨタ、ボク、何かワルイこと、シタ?」
「ううん、何もしてないよ。ただ、何だか安心したんだ」
「アンシ、ン?」
「うん、大事なままだったから」
僕には理解出来ない言葉を言って、トヨタは少しだけ目を潤ませた。その目蓋にゆっくりと唇を落すと、くすぐったがるようにトヨタが笑い声をあげる。だけど、調子にのって、ケーキの生クリームを唇や首筋につけて舐め取ると、真っ赤になって怒られた。暫くはそっぽを向いて怒っていたトヨタだけど、数分後、その背中から小さな声が聞こえてきた。
「これからもよろしく、父さん」
僕は、自分の足下が積み木ではなくなっている事に気付きもせず、ただただ幸せに酔い痴れた。