アダムとトヨタ
アダムとトヨタ(3)
それから、七年―――七年間も! 僕は父と一緒にいる。
父は自分の美貌を利用するのを、一切躊躇わなかった。女だろうが男だろうが、子供だろうが老人だろうが、どんな相手でも抱き、皆一様に虜にした。父の歩いた後には、男と女の抜け殻が転がっている。父に魂を喰われて、愛の価値を見失った人間達の抜け殻が。父はその抜け殻を、いけしゃあしゃあと踏み潰して優雅に歩いていくのだ。
そんな爛れた交際をしていたせいで、中学生の頃、僕は、父と心中しようとした女に腹を刺された。腸を裂かれる痛みと血が抜けていく虚脱感に覆われながら、僕は父の悪魔の顔を見た。父は女を半殺しにした。警察が止めに来なかったら、きっと殺してた。しなやかな腕を振り上げて、拳を叩き付ける。何度も、何度も、何度も何度も何度も何度も何度も何度も。今でも、ぐちゃぐちゃに潰された女の顔が忘れられない。人間というよりも肉塊だった。
そうして、もう一つ覚えているのは、
「トヨタが死ヌ、ダラ、ボク、死ヌ!」
と喚いていた父の泣き声だ。血を垂れ流す僕の腹を必死で押さえて、父は泣きじゃくっていた。その時、僕は初めて父に愛されていることを実感した。それから、僕は、自分と父が血が繋がっているのか考えることをやめた。どうでも良くなったとは違う。僕は怖くなったのだ。僕と父の血が繋がっていないことを、僕は恐れた。その日から、僕は父のことを「父さん」と呼ぶようになった。
そうして、父もその日から変わった。病院を退院した日、父は畳の上に正座して、僕に『一生のお願い』というものをしたのだ。
「トヨタ、ぼく、パパで、恋人ニ、シテ」
どういうつもりで、父が僕の『父親』であり『恋人』になりたがったのかは解らない。だけど、捨て犬のような目をした父を、僕は拒絶することが出来なかった。
その後はもうなし崩しだ。僕は父に抱かれたし、父は僕を抱いた。父がお腹いっぱいに突き立てられているのを感じながら、僕は近親相姦という言葉を頭の中に思い浮かべては、必死で打ち消した。
痛みとわけのわからない悲しみでぼろぼろと泣く僕を抱きしめて、父は拙く「トヨタ、アイシテる、アイしてル」と繰り返した。その言葉を聞いた瞬間、僕は無性に父が愛おしくてたまらなくなった。そうして、愛してるならもういいじゃないか、と思った。父が父でも、父じゃなくても、僕が息子でも、息子じゃなくても、一番大事なことは解っているから。
指先を絡め合って歩くのは、正直言って恥ずかしい。ステージの後、フカヒレを食べて、僕と父は家へと帰る道を二人で歩く。父は、嬉しそうにフンフンと鼻歌を漏らしている。時々、恥ずかしさに俯く僕を覗き見ては、幸せそうに微笑む。そうして、宝石でも零すみたいに、僕の耳元にそっと囁くのだ。
「トヨタ、だいすき、ヨ」
そんなこと知ってるよ、父さん。