秘事(堕坊)
男は急遽作業を中断して台所へ駆けていった。掌を念入りにゴシゴシ洗い、臭いがしないかどうか嗅いでみる。そうして確認を終えると、ノック音のうるさい玄関に向かった。
「ヤクルトでーす!」
ドア先には黄色い雨ガッパを着てにっこり微笑んだ配達のおばちゃんが立っていた。男が代金を支払うと、おばちゃんは腰のポシェットにそれを突っ込みながら喋りかけた。
「ちゃんと睡眠取ってます?」
「ええ」
「あ、今度、学生の健康な生活を促進する、っていうんでキャンペーンやってるんですよ。これチラシ。ヤクルト1パック買うとジョア1つ付いてくるんで。あ、そうだ、今渡さなくちゃね。味は何がいい?」
たくさんのジョアが詰まった発泡スチロール製のクーラーボックスをおばちゃんがゴソゴソやってるのを男は覗き込んだ。
「ブルーベリーで」
「ブルーベリーですか! はいどうぞ! あ、そうだ。バイトの面接受けに行くって以前言ってましたけど、どうでした?」
「はあ、何とか」
「それはよかった! あ、すいません。時間が無いので失礼します。それじゃ! またお願いしますねー!」
おばちゃんが去った後、男は部屋に戻ってヤクルトを一本飲み干した。