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早稲田文芸会
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ストイコビッチのキックフェイント(笠井りょう)

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私と智美の二人が食べ終わった頃に恵梨も合流。サッカーと、近況と、将来の話をする。本人の名誉のために文体は変えてあるけど、恵梨は、こういうことを言う女子大生だ。
「行政書士という職業は、正直なところ、どうなんだろうか?
 就職については、
 私は、金融業以外には本当に興味がないかもしれない。
 あるいは、法律事務所に行くかどうかといったところだ」
 智美が煙たい顔をする。お金にかかわる話を嫌がらずに聞き流す教育を受けていない子だからしかたない。代わりに引きとって恵梨の話を聴く。
就職活動をしたくないのか、就職をしたくないのか、就職と一緒くたに話されがちな結婚のことを考えたくないのか、考えること自体に疲れてるのか、自分でもよくわからない、と言う恵梨に、智美は「考える前に、働け」というようなことを話した。私は「恵梨の言う通りだね」というようなことを話した。それに答えて恵梨が「どうせこんなもの一過性の悩みなのに、その重さに耐えられない私は弱いのかもしれない」というようなことを言うから、びっくりだ。
その場では訊かなかったけど、恵梨が、自分の人生を、いくらでも替えの効くなりゆき任せの組み立て部品の集まりだとしか思えずに、ひたすら自分の体験や気持ちを矮小に見積もることにしか気が行ってないのだとしたら、恵梨はこれからいつもいつまでも楽しく生きられない。言語操作技能検定協会初代会長みたいに、鎌倉仏教でも体得して解脱できれば話は別だけど、その考え方が行き着く先には終わりのない苦しみの自覚しか残らない。
でも私が驚いたのは、いまの大学生が気持ち的にそこまで追い詰められてるのを知らなかったからじゃない。恵梨が悩みをぐだぐだ愚痴る姿が、昔の私そっくりだったからだ。
そして私は自分がどうやってその悩みから脱け出せたのかをもう思い出せない。私はまだ若かった時の私をもう理解できなくなっていて、だから恵梨の話もなるべく親身に聴いてあげるくらいしかできなかった。私は今年で二十五歳になる。