ストイコビッチのキックフェイント(笠井りょう)
私のチームの子たちは友達にはなるべく裸を見られたくない女の子ばかりだから、更衣室でも部屋でしてきたスポーツブラすら隠すようにユニフォームを着替える。汗とかもシカト。シャワーも浴びずにジャージで家まですっぴんで走って帰る一児の母とかもいる。アマチュアとはいえサッカー選手としてのプライドを捨てたくない私は試合後まずちゃんとストレッチをして、シャワーをゆっくり浴びてから、汗に濡れたユニフォームも下着もすべて着替える。この時にはもう更衣室には誰もいなくなるから、ソックスもレガースも脱いで洗える袋にたたんで入れて、肩掛け鞄の底に四角くしまう。スパイクは泥を落としてポイントの減りを調べてロッカーへ。無香料の消臭スプレーを室内へひたすらにまいたところで臭いが取れないことは経験済みだから、更衣室とシャワールームの間に一室設けて欲しいのだけど、市の財政予算案はそんなことへは一文字も気を使ってくれない。全裸で着替え用の下着に消臭スプレーするのがちょっと馬鹿っぽくて、せめて背筋を伸ばして胸を張って、全身を鏡に映しながら作業。この姿勢でスパイク磨くとなかなか絵になるみたいだ。誰も見てないから気がねなくかっこつけ放題である。
作品名:ストイコビッチのキックフェイント(笠井りょう) 作家名:早稲田文芸会