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早稲田文芸会
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ストイコビッチのキックフェイント(笠井りょう)

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私がいま所属しているのはこの市ではだいぶ老舗のクラブで、この地域ではぽっと出の新興勢力、この県ではまだ誰も知らない未知の存在、この国ではまだ登録すら確認されておらず、この宇宙には数々の美しい星々が今日もきらきらと輝いている。うちのチームはなんとか県大会の一回戦に出れたら将来息子にちょっとだけ自慢出来るかなくらいの実力で、「やっちゃん」はこの県のサッカー関係者なら誰もが知ってる伝説のスター選手だ。国道沿いのスーパー銭湯の永代無料入泉券を持っていた。なくしちゃったので、爺ちゃんの株主優待無料入泉券を借りて毎晩そこへ通っている。私は銭湯の床のあの濡れた感じがちょっと無理なので「やっちゃん」には付き合わない。一人で女湯入るのもなんか虚しいし、全巻あった『キャプテン翼』も『ホイッスル』もなくなってしまった。近所の馬鹿な男子中学生どもが練習試合終わりの汚れた指でやたらに触るから銭湯側が漫画棚を撤収しちゃって、いまじゃTV業界の暗部に寄生するうま味で儲ける類の雑誌しか置いてない。「やっちゃん」たちは夏と春に帰省してくる孫たちから携帯電話の開き方とボタンを押す順番をしっかり教育されてるから、お風呂上がりは高いところに設えられたテレビを天国でも見上げるように眺めながら、時々ちらちら携帯を見る。電話が鳴ったらすぐに出ないと不安な歳頃だし、携帯画面を流れるニュース字幕とテレビ画面のテロップが全く同じことを全く同じ時間に言っていることに何も感じないみたいだ。「どれ見ても同じこと書いてあるな!」なんて言いながら、テレビを見ながら新聞を広げて携帯を開いて雑誌をめくってる。最新の流行についていかないと、孫たちが田舎を離れていってしまうという思い込み。私たちが「やっちゃん」から聴きたいのは小沢一郎の悪口じゃなくてドランクドラゴンの太ったほうが出ていた映画じゃなくてサッカーの技術であって、「やっちゃん」が目を輝かせて語るプラティニのトヨタカップん時のあのプレーなのに。