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早稲田文芸会
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ストイコビッチのキックフェイント(笠井りょう)

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もう一度始まるリフティング。身構える私。パス。足が球の端っこをかすったせいで、変な回転がかかったボールがあらぬ方角へ。ボールが前に飛ばない。「Hey!」と私を呼ぶ「やっちゃん」。楽しい音楽にはしゃいでるのではなくて、ボールが欲しい時の合図だ。足だけじゃまだ操りきれないから、本番ですると即退場だけど、ボールを両手で拾って、放り投げる。振り抜かれる「やっちゃん」の左脚! は空振り! ボールは蹴り終えて崩れた軸足でワントラップされて(空振りはフェイントだ!)、立て直した「やっちゃん」はすぐさま追いかけて今度は右足! 直撃した家の壁が音を立てて崩れ落ちていくと、無人のサッカースタジアムがあらわれた。私を連れて「やっちゃん」はフィールドの内側へゆっくりと歩いていき、センターサークルの端に転がっていた古いサッカーボールを片手で拾い上げ、置いた。どうして一回拾ったのかはわからない。アドリブでかっこいいポーズをするつもりが、思いつかなくて、やっぱり止めた、ということだったのかな。
編集点が十分作れるくらいの沈黙と静止を経て、「さ。練習しよう」と「やっちゃん」は言った。その日から私は毎日学校帰りに時空をひとつまたいだ向こう岸にあるサッカースタジアムで「やっちゃん」の熾烈な試験を受け続けてきた。つらかった。「やっちゃん」は私の前で一度もミスをしなかったから。ボールの扱いも言葉遣いも常に既に永遠に強く正しく美しい人として生きていた。シュートを外すのはいつも「わざと」だったし、私に主導権を譲るのも「あえて」で、ゴールネットを揺らすときはいつも「しかたなく」そうしていた。ボールがゴールポストに当たる音が好きで、誰かの言葉を適切に誠実に引用しながら原語で「3点差が着いたらゴールポストを狙うんだ。でないとお客さんも選手も退屈しちゃうからね」